2025年 | プレスリリース・研究成果
揺れる培養が導く、iPS細胞の新しい時間 概日リズムを制御して骨の細胞に導く培養法を発見
【本学研究者情報】
〇大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野
教授 江草 宏
助教 大川 博子
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を骨の細胞に誘導する過程において、細胞を揺らして培養すると、時計遺伝子の発現リズムが減弱することを発見しました。
- この分子機構として、細胞内のシグナル伝達系におけるYAP(注1)とTEAD(注2)の相互作用が促され、その結果、時計遺伝子(注3)のタンパク質が分解されていることを見出しました。
- YAPとTEADの相互作用を阻害する化合物を用いることで、iPS細胞を揺らしながらも概日リズムを回復させ、骨の細胞への誘導を至適化できる事を実証しました。
【概要】
iPS細胞は様々な組織への分化が可能で、再生医療への様々な応用が報告されています。概日リズムは、生体の生理機能を24時間周期に同調させる重要なシステムであり、近年では幹細胞の増殖や分化にも関与していることが知られています。
東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野の大川博子助教および江草宏教授らの研究グループは、マウスiPS細胞を用いて骨芽細胞への分化を誘導する際に、従来の接着培養と、細胞を揺らして刺激を与えながらの培養(振盪培養)という培養法の違いが、細胞内の概日リズムに与える影響を解析しました。従来の接着培養では、iPS細胞において時計遺伝子の発現に周期的なリズムを認めた一方で、振盪培養ではこのリズムが顕著に抑制されました。
本研究は、iPS細胞を用いた再生医療やバイオエンジニアリングにおいて、生体リズムという新たな視点が培養技術の進歩に貢献することを示しています。
本研究成果は、2025年5月24日に科学誌Cell Death Discoveryのオンライン版に掲載されました。

図1. 培養方法の違いがiPS細胞の概日リズム形成に及ぼす影響
【用語解説】
注1.YAP:細胞が受ける力に反応して細胞核に移動し、遺伝子の発現を調整するセンサーとして働くタンパク質。組織の成長やがん化などにも関与します。
注2. TEAD:YAPと結合して働く転写因子で、細胞の分化に影響を与える役割を担います。
注3. 時計遺伝子:体内時計をつかさどる遺伝子で、機械的な刺激とも連動し、生理機能や組織再生に関与しています。
【論文情報】
タイトル:Shaking culture attenuates circadian rhythms in induced pluripotent stem cells during osteogenic differentiation through the TEAD-Fbxl3-CRY axis
著者:Yunyu Fu, Hiroko Okawa*, Naruephorn Vinaikosol, Satomi Mori,Phoonsuk Limraksasin, Praphawi Nattasit, Yu Tahara, Hiroshi Egusa*
*責任著者:東北大学大学院歯学研究科 教授 江草 宏、助教 大川博子
掲載誌:Cell Death Discovery
DOI:10.1038/s41420-025-02533-6
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
分子・再生歯科補綴学分野
助教 大川博子(おおかわ ひろこ)
Email: hiroko.okawa.d3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院歯学研究科
分子・再生歯科補綴学分野
教授 江草 宏(えぐさ ひろし)
Email: egu*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科広報室
TEL: 022-717-8260
Email: den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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