2025年 | プレスリリース・研究成果
MSI-H進行胃がんに新たな治療選択肢の可能性-化学療法を用いない免疫療法併用が有効性を示す-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科 臨床腫瘍学分野
教授 川上尚人
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)(注1)の胃がんは、免疫チェックポイント阻害薬(注2)に高い感受性を示すことが知られていますが、MSI-H進行大腸がんに対して有効性を示しているニボルマブ(注3)と低用量イピリムマブ(注4)の併用療法について、MSI-H進行胃がんに対する前向き臨床試験(注5)は存在しませんでした。
- 今回初めて、第II相試験(NO LIMIT試験)(注6)として、MSI-H進行胃がんに対するニボルマブとイピリムマブの併用療法を行い、初回治療として有効性と安全性が評価されました。
- 奏効率は1%、無増悪生存期間の中央値は13.8か月と良好な治療成績を示し、副作用による治療中止後も多くの患者で腫瘍縮小効果が持続しました。
【概要】
MSI-H進行胃がんは免疫療法が有効ながんですが、MSI-H進行大腸がんで有効性が示されたニボルマブ+イピリムマブ療法の前向き臨床試験はこれまで行われていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野の川上尚人教授(東北大学病院腫瘍内科 兼任)と愛知県がんセンター副院長/薬物療法部長の室圭ら西日本がん研究機構(WJOG)の研究グループは、MSI-H進行胃がん患者を対象に、ニボルマブと低用量イピリムマブの併用療法の有効性と安全性を評価する第Ⅱ相試験「NO LIMIT試験」を医師主導治験として実施しました。その結果、本治療法は高い抗腫瘍効果を示し、特に治療関連有害事象により治療を中断した患者においても、効果が長期間維持されることを明らかにしました。
本成果は、がん治療における免疫療法の可能性をさらに広げる重要な知見であり、2025年5月16日付で医学誌Journal of Clinical Oncology誌に掲載されました。

図1.盲検下独立中央審査(BICR)評価によるベースラインからの標的病変サイズの最良の変化を描いたウォーターフォールプロット(n = 27)。CRは完全奏効、PRは部分奏効、SDは病勢安定、PDは病勢進行。
【用語解説】
注1.MSI-H(Microsatellite Instability-High):DNA修復機能の異常により遺伝子配列が不安定化している状態です。
注2. 免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞による免疫抑制を解除する新しいがん治療薬です。
注3. ニボルマブ:PD-1阻害薬:免疫のブレーキを外して、免疫細胞ががんとより強く戦えるようにする薬(免疫チェックポイント阻害剤)です。進行胃癌では保険適応となっています。
注4.イピリムマブ:CTLA-4阻害薬:これも免疫チェックポイント阻害剤ですが、胃癌では保険適応がありません。ニボルマブと組み合わせて使うことでより強い効果が期待されます。
注5. 前向き臨床試験:これから治療を始める患者さんを登録して、治療の効果や副作用などを将来にわたって調べていく研究です。
注6. 第II相試験(NO LIMIT試験):新しい薬や治療法が「どのくらい効くか」「どんな副作用があるか」を、少人数の患者さんで調べる段階の試験です。
【論文情報】
タイトル:Phase II Study (NO LIMIT, WJOG13320G) of First-Line Nivolumab plus Low-Dose Ipilimumab for Microsatellite Instability-High Advanced Gastric or Esophagogastric Junction Cancer
著者: Hisato Kawakami*, Shigenori Kadowaki, Akitaka Makiyama, Masahiro Tsuda, Kenro Hirata, Naotoshi Sugimoto, Nozomu Machida, Hiroki Hara, Hidekazu Hirano, Taito Esaki, Yoshito Komatsu, Shuichi Hironaka, Yukari Kobayashi, Kazuhiro Kakimi, Yasutaka Chiba, Narikazu Boku, Ichinosuke Hyodo, and Kei Muro
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 臨床腫瘍学分野 教授 川上 尚人
掲載誌:Journal of Clinical Oncology
DOI:10.1200/JCO-24-02463
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 臨床腫瘍学分野
教授 川上 尚人(かわかみ ひさと)
TEL:022-717-8547
Email:kawakami_h*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
Email:press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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