2025年 | プレスリリース・研究成果
大腸炎症がインスリン産生を促す仕組みを解明! ‐糖尿病の新たな予防法・治療法の開発に期待‐
【本学研究者情報】
〇東北大学病院 糖尿病代謝・内分泌内科 今井淳太 特命教授
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 大腸に炎症が起こると肝臓がその炎症を感知し、その情報を脳・膵臓(すいぞう)へ伝え、膵臓でインスリンを作るβ細胞(注1)を増やす仕組みをマウスにおいて発見しました。
- 肥満時にも大腸の炎症が起こっており、同様の仕組みによって膵臓のβ細胞が増えることを解明しました。
- β細胞の数を調節することにより、血糖値が正常に保たれる仕組みの解明に加え、この仕組みを調節することによる糖尿病の予防法・治療法の開発が期待されます。
【概要】
肥満と糖尿病の発症には密接な関係がありますが、軽度の肥満で糖尿病にならないのは、血糖値を下げるホルモン(インスリン)を作る膵臓のβ細胞が増えてインスリンを多く出せるようになるからです。これまで、東北大学病院の研究グループは、肝臓が肥満の状態を感知し、肝臓、脳、膵臓を経由した神経信号伝達システムを使ってβ細胞を増やしていることを明らかにしてきました。しかし、肝臓がどのようにして肥満状態を感知してβ細胞を増やすのかは不明でした。
東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝・内分泌内科の今井淳太特命教授、久保晴丸医師(現北里大学病院 内分泌代謝内科 助教)、片桐秀樹教授らのグループは、高カロリーの食事などによって肥満になると大腸に炎症が起こり、大腸で生じる炎症性の物質が漏れ出て肝臓に流入することが起点となり、肝臓、脳、膵臓をつなぐ神経信号伝達システムを使ってβ細胞を増やしていることを明らかにしました。さらに、肥満でなくても、大腸に炎症が起こるだけで、この仕組みによってβ細胞が増えることも見いだしました。この発見により、β細胞の数を調節して血糖値が正常に維持されるメカニズムの解明に加え、このシステムを調節することによる糖尿病の治療法や予防法の開発が期待されます。
本研究成果は、2025年5月8日(日本時間5月9日)に米国臨床調査協会が発行する学術誌JCI Insightに掲載されました。

図1. β細胞を増加させ、インスリンを増やす神経信号伝達システム
肥満の際に肝臓でERK経路がどのようにして活性化するのかは不明だった。
【用語解説】
注1.β細胞、ランゲルハンス島:血糖値を下げるホルモンであるインスリンを作る体内唯一の細胞。ランゲルハンス島といわれる膵臓の中にある多くの島状の部位に集まって存在する。食事に応じ、インスリンを血中に放出(分泌)する働きにより、食前は血糖値が下がりすぎず、食後の血糖値の上昇を抑えることができる。このβ細胞の働きが悪くなったり、数が減ったりすることで、糖尿病が発症することが知られている。
【論文情報】
タイトル:Colonic inflammation triggers β-cell proliferation during obesity development via a liver-to-pancreas inter-organ mechanism
大腸炎症を起点とした肥満時の肝臓-膵β細胞間連関メカニズムによる膵β細胞増殖
著者: Haremaru Kubo, Junta Imai*, Tomohito Izumi, Masato Kohata, Yohei Kawana, Akira Endo, Hiroto Sugawara, Junro Seike, Takahiro Horiuchi, Hiroshi Komamura, Toshihiro Sato, Shinichiro Hosaka, Yoichiro Asai, Shinjiro Kodama, Kei Takahashi, Keizo Kaneko and Hideki Katagiri*
*責任著者:東北大学病院 糖尿病代謝・内分泌内科 特命教授 今井 淳太(いまい じゅんた)
東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝・内分泌内科学分野 教授 片桐 秀樹(かたぎり ひでき)
掲載誌:JCI Insight
DOI:10.1172/jci.insight.183864
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学病院 糖尿病代謝・内分泌内科
特命教授 今井 淳太(いまい じゅんた)
TEL: 022-717-7611
Email: junta.imai.b1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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