2025年 | プレスリリース・研究成果
ALSの異なる原因が共通の遺伝子「UNC13A」の発現異常に収束 病気の全貌解明へ新知見
【本学研究者情報】
〇医学系研究科細胞増殖制御分野
助教 渡辺靖章
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)に関わる複数のたんぱく質(TDP-43、FUS、MATR3、hnRNPA1)が、神経の働きに重要な遺伝子「UNC13A」の発現を維持する役割を担っていることを明らかにしました。
- ALS関連たんぱく質が失われると、UNC13Aたんぱく質のもとになるmRNA(注2)が分解されやすくなる経路があることは知られていましたが、今回、「REST」(注3)という発現抑制たんぱく質が過剰となりUNC13AのmRNA産生が抑えられる別の経路があることを新たに発見しました。
- ALSの発症に関わる遺伝子やたんぱく質は多数あり、治療標的を絞ることが困難と考えられてきました。しかし本研究により異なる病因がUNC13Aという遺伝子の発現異常に収束することがわかり、治療法開発の有力な手がかりとなります。
【概要】
運動神経細胞が徐々に少なくなっていくことで力が入らなくなる難病ALSは、原因が多様で発症や進行のメカニズムの解明が難しいとされてきました。
東北大学大学院医学系研究科の渡辺靖章助教らと、慶應義塾大学再生医療リサーチセンターの森本悟副センター長らの共同研究グループは、ALSの発症に関わる4種類のRNA結合たんぱく質(注4)をそれぞれ欠損させた神経系培養細胞を用いて、遺伝子発現を解析しました。その結果、mRNAの不安定化による分解の活発化あるいは発現抑制たんぱく質RESTの増加によるmRNAの産生抑制を通じて、神経の働きに重要なUNC13Aという遺伝子の発現が顕著に減少していることを発見しました。さらに、ALS患者の遺伝子変異を持つiPS細胞(注5)由来の運動神経細胞やALS患者剖検組織において、UNC13Aの発現を抑制する働きのあるRESTが過剰に存在することが確認されました。今回の成果は、ALSの発症に関わる 4種類のRNA結合たんぱく質の機能が失われることにより、神経細胞の働きを支えるUNC13A遺伝子の発現が抑制される可能性を示したもので、病気の本質的な理解につながる重要な一歩です。
本研究成果は2025年7月24日 (日本時間19 時) に国際科学誌The EMBO Journal (電子版) に掲載されました。

図2. 本研究の概略図
【用語解説】
注1.ALS (筋萎縮性側索硬化症): 運動神経細胞が徐々に変性・脱落する難治性の神経変性疾患で、筋力の低下や呼吸障害を引き起こす。
注2. mRNA: DNAの遺伝情報をもとに細胞内でたんぱく質を作る際にもとになる分子。
注3. REST: 神経の分化や活動を抑制する転写因子で、ストレス応答や神経疾患との関連が近年注目されている。別名NRSF。
注4. RNA結合たんぱく質: RNAに結合してその働きや安定性、翻訳、スプライシングなどを調節するたんぱく質群で、神経疾患との関係が注目されている。
注5. iPS細胞: 人工多能性幹細胞。皮膚や血液などの体細胞から作られる、さまざまな細胞に分化できる細胞。患者由来の神経細胞を作成して病態を解析する研究に用いられている。
【論文情報】
タイトル:ALS-associated RNA-binding proteins promote UNC13A transcription through REST downregulation
著者:Yasuaki Watanabe*, Naoki Suzuki, Tadashi Nakagawa, Masaki Hosogane, Tetsuya Akiyama, Naotoshi Kageyama, Yukino Funayama, Hitoshi Warita, Satoru Morimoto, Hideyuki Okano, Masashi Aoki, and Keiko Nakayama*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 細胞増殖制御分野 助教 渡辺靖章、同 教授 (兼) 東京科学大学 リサーチインフラマネジメント機構 副学長 中山啓子
掲載誌:The EMBO Journal
DOI:10.1038/s44318-025-00506-0
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 細胞増殖制御分野
助教 渡辺靖章
TEL: 022-717-8227
Email: yasuaki.watanabe.b8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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