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加齢による造血幹細胞生着不全の機序を解明 骨髄代謝・血流動態の変容が起因

【本学研究者情報】

〇医学系研究科幹細胞医学分野 
教授 田久保圭誉
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 白血病などの造血器疾患の根治を可能とする造血幹細胞 (HSC) 移植の成功率が加齢と共に減少する原因の一端を明らかにしました。
  • 骨髄では血球細胞により産生されるアセチルコリンを起点とした一酸化窒素 (NO) シグナル経路(注1によって血流が保たれており、加齢によりその機能低下が見られることが判明しました。
  • 骨髄では血流による類洞血管内皮細胞 (2) の活性化により、移植した造血幹細胞 (HSC) (3) の骨髄への生着効率 (4) が維持されていました。
  • 高齢個体で低下したHSCの生着効率は、加齢により減弱するNOシグナル経路の再活性化や、骨髄類洞血管の活性化により改善が見込まれる可能性が示されました。

【概要】

これまでHSC移植時のHSCの生着率は加齢に伴い低下することが知られていましたが、その要因は明らかではありませんでした。

東北大学大学院医学系研究科幹細胞医学分野および国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 造血システム研究部の田久保 圭誉教授・部長、同部の森川 隆之上級研究員ら、神奈川県立産業技術総合研究所の研究グループは、この要因として骨髄の局所血流・代謝に着目し、加齢による血流の減少に加え、血管拡張を担うアセチルコリンや一酸化窒素 (NO) を介するシグナル経路の減弱を認めました。このとき血液と血管壁の間に血流によって生じる力であるずり応力 (5)も、骨髄類洞血管で加齢により低下することがわかりました。HSCの骨髄への生着におけるずり応力の役割を検証したところ、移植後HSCの生着効率の加齢による低下は、アセチルコリン-NOシグナル経路の加齢変化が一因であることが示されました。同シグナル経路が高齢個体での移植効率の改善に向けた有効な治療標的となりうることが期待されます。

本成果は、2025年7月1日付で学術誌Nature Communicationsに掲載されました。

図1 マウス骨髄の加齢による代謝変化
a マウス骨髄の代謝物解析の流れ。代謝物の分解が少ないin situ凍結法によって得られた骨髄サンプルから代謝物を抽出しキャピラリー電気泳動/質量分析計(CE/MS)により各代謝物の骨髄内濃度を測定しました。
b 代謝物測定値から加齢によって変動が予測された代謝経路。NOシグナル経路が加齢によって活性が低下する代謝経路のひとつとして示されました。

【用語解説】

注1.一酸化窒素 (NO) シグナル経路:動脈系においてはアセチルコリンなどによって血管内皮細胞のNO合成酵素が活性化しNO産生が上昇します。NOが内皮細胞に近接した血管平滑筋細胞を弛緩させることで血管が拡張します。

注2. 類洞血管 : 骨髄の血管の中で上流側の動脈などと比較して径が太く、下流側にあたる血管です。主にこの類洞血管の壁を介して血球細胞や物質が血管内外の行き来をしているとされます。

注3. 造血幹細胞 : 分裂することで生涯にわたってあらゆる血液細胞を供給している細胞です。哺乳動物の成体では主に骨髄に存在している数少ない細胞です。

注4. 生着 : 造血幹細胞移植において、移植した造血幹細胞が血中から骨髄に移行したのち、造血を開始することを生着と言っています。

注5. ずり応力:血液循環系においてずり応力とは血流が血管壁に平行な方向に作用する力で、流速が速いほどずり応力は大きくなります。

【論文情報】

タイトル:Decreased non-neurogenic acetylcholine in bone marrow triggers age-related defective stem/progenitor cell homing
著者: 森川隆之、藤田進也、杉浦悠毅、玉置親平、原口美帆、城下郊平、綿貫慎太郎、小林央、須藤光、内藤善子、早川典代、松浦友美、菱木貴子、松井稔、筒井正人、末松誠、田久保圭誉*
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科幹細胞医学分野 教授 
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 造血システム研究部長 田久保 圭誉
掲載誌:Nature Communications
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-60515-9

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科幹細胞医学分野
教授 田久保 圭誉(たくぼ けいよ)
TEL: 022-717-8150
Email: keiyo.takubo.e5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
E-mail: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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