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がん細胞を確実に「死」へと導く新たな機構を解明 -がん細胞の生き残りを防ぐためのメカニズム-

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 衛生化学分野
教授 松沢 厚
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 遺伝子変異により細胞死(アポトーシス(注1))耐性となったがん細胞に対してもアポトーシスを誘導できる新たな機構を発見しました。
  • がん細胞の無秩序な増殖を抑制する腫瘍抑制遺伝子LKB1(注2)(シグナル伝達分子の一つ)が、がん細胞を確実に死へと導くことを発見しました。
  • ポイツ・ジェガース症候群(注3やがんで見られるLKB1変異体はアポトーシスを誘導できなかったことから、本機構ががん発症の抑制に重要であることが示唆されました。
  • 本研究成果は、治療抵抗性を示すがんに対する新たな治療法の確立に繋がると考えられます。

【概要】

「死の受容体」とも呼ばれるFas受容体(注4はがん細胞に対し強力に細胞死 (アポトーシス)を誘導するため、がん治療への応用が期待されています。しかし、多くのがん細胞では遺伝子変異によっては典型的なアポトーシス誘導経路が機能せず、アポトーシスに耐性(アポトーシスが誘導されにくい状態)を示します。

東北大学大学院薬学研究科の山田裕太郎大学院生、土田芽衣博士、松沢厚教授および岩手医科大学薬学部の野口拓也教授らの研究グループは、がん抑制遺伝子LKB1、典型的なアポトーシス誘導経路とは別の代替経路によってアポトーシスを誘導することが判明しました。これはFas受容体による全く新しいアポトーシス誘導機構です。種々のがんで見られるLKB1の変異体は、今回発見した代替経路によるアポトーシスを誘導できなかったため、本機構の破綻ががんの発症に関与することが示唆されました。

本研究の成果は、2025年6月21日に細胞死に関する専門誌 Cell Death Discovery に掲載されました。

図. LKB1によるがん細胞に対するアポトーシス促進機構
Fas受容体はミトコンドリア依存的なアポトーシス誘導因子の放出により細胞死を誘導するが、多くのがん細胞でこの経路は不活性化されている。LKB1はFas受容体による切断を受け、アポトーシス阻害因子(IAP)を分解へ導くことで、典型的経路が変異したがん細胞に対してもアポトーシス誘導を可能にする。

【用語解説】

注1. アポトーシス
細胞が自身の細胞死を積極的に引き起こす、プログラム(制御)された細胞死の機構。

注2. LKB1(Liver Kinase 1)
細胞の無秩序な増殖を抑制するがん抑制遺伝子で、通常は細胞内シグナル伝達においてタンパク質リン酸化酵素として働く。LKB1の遺伝子変異は散発性がんやポイツ・ジェガース症候群の原因となる。

注3. ポイツ・ジェガース症候群
腸管ポリープの形成や、高いがん発症リスクを特徴とする遺伝性疾患。LKB1の変異が直接的な原因であることが知られている。

注4. Fas受容体
がん細胞が免疫細胞に認識された際に活性化する受容体であり、その下流シグナルによってアポトーシスが誘導される。

【論文情報】

タイトル:Truncated LKB1 nonenzymatically enhances Fas-induced apoptosis by acting as a surrogate of Smac
著者:†Yamada Y, †Tsuchida M, †*Noguchi T, Yokosawa T, Mitsuya M, Shimada T, Oikawa D, Hirata Y, Tokunaga F, Schneider P, *Matsuzawa A.
†筆頭著者:東北大学大学院薬学研究科 大学院生 山田裕太郎
      東北大学大学院薬学研究科 大学院生(研究当時) 土田芽衣
†筆頭著者 *責任著者:岩手医科大学薬学部 教授 野口拓也
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 教授 松沢厚
掲載誌:Cell Death Discovery
DOI:10.1038/s41420-025-02570-1

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 松沢厚
TEL: 022-795-6827
Email: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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