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β-ラクトンの新たな生合成機構を解明 新たな創薬リードの探索に期待

【本学研究者情報】

〇薬学研究科 医薬資源化学分野 
教授 浅井 禎吾

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【発表のポイント】

  • 医薬品の活性部位として重要なβ-ラクトン環が糸状菌の生体内で作られる新たな仕組みを明らかにしました。
  • 高還元型ポリケチド合成酵素の触媒ドメインに隠された新たな機能を明発見した革新的な成果です。

【概要】

β-ラクトンは様々な医薬品に含まれる重要な化学構造です。歪んだ4員環構造をもつため反応性が高く、この部分が標的分子(タンパク質など)と反応することで様々な薬効を示します。糸状菌が作るヒメグルシンはβ-ラクトンを含む天然有機化合物(天然物)の一種であり、薬剤耐性菌の薬剤耐性化を克服できる併用薬としての利用が期待されています。本化合物の作用にもβ-ラクトンが重要ですが、この構造が糸状菌の細胞内でどのように作られるかはわかっていませんでした。

東北大学大学院薬学研究科の浅井禎吾教授の研究グループは、高還元型ポリケチド合成酵素(注1)に着目したゲノムマイニング(注2)により、ヒメグルシンの生合成遺伝子(注3)を見出しました。研究グループは、ヒメグルシンの生合成機構を詳細に調べることで、高還元型ポリケチド合成酵素のKSドメインが、炭素鎖の伸長という本来の機能に加えて、β-ラクトンの構築を担うことを明らかにしました。高還元型ポリケチド合成酵素の触媒制御機構は非常に複雑であり、世界中で盛んに研究が進められていますが、未だにその全容は明らかにされていません。本研究は高還元型ポリケチド合成酵素の触媒ドメインの新たな機能を発見した革新的な成果であり、新たなβ-ラクトン含有天然物の探索や創製につながるものです。

本成果は2025年7月10日付で科学誌Journal of the American Chemical Societyにオンライン掲載されました。

図1.ヒメグルシンとβ-ラクトンをもつ天然物の化学構造

【用語解説】

注1. 高還元型ポリケチド合成酵素:脂肪酸合成酵素に類似した酵素でKS  (ケト基合成酵素) 、AT (アシル基転移酵素) 、DH (脱水酵素) 、MT (メチル基転移酵素) 、ER (エノイル還元酵素) 、KR (ケト基還元酵素) 、ACP (アシル運搬タンパク質) という複数の触媒ドメインで構成されている。これらのドメインを繰り返し反応に利用することで、酢酸単位の縮合と還元を触媒し、炭素鎖を合成する。KSドメインは通常、Claisen型の縮合反応により炭素鎖を伸長する機能をもつ。

注2. ゲノムマイニング:生合成研究の情報をもとに、目的の生合成遺伝子をデータベースなどの遺伝子情報から探索する方法。生合成研究の飛躍的な発展により、遺伝子情報から生産される化合物の特徴がある程度予想できるようになった。一方で、未開拓な生合成遺伝子が豊富に存在することも明らかとなり、新規天然物の生合成に関連した遺伝子が数多くゲノム上に隠されていることもわかってきた。

注3. 生合成遺伝子:天然物は生体内で一次代謝物を原料として、連続的な酵素反応により生合成される。それら多段階の酵素反応による変換経路を生合成経路と呼ぶ。全ての天然物に固有の生合成経路があり、その情報は生物遺伝子としてゲノム上にコードされている。

【論文情報】

タイトル:Ketosynthase Domain Catalyzes -Lactonization in the Biosynthesis of an HMG-CoA Synthase Inhibitor Hymeglusin
著者: Mizuki Hirokawa, *Taro Ozaki, Kento Tsukada, Akihiro Sugawara, Yohei Morishita, and *Teigo Asai
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 教授 浅井 禎吾、准教授 尾﨑太郎
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.5c07060

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 浅井 禎吾
TEL: 022-795-6822
Email:teigo.asai.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院薬学研究科
准教授 尾﨑 太郎
TEL:022-795-6824
Email:taro.ozaki.d3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
電話:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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