2025年 | プレスリリース・研究成果
気孔を閉じさせるK⁺チャネルの調節部位を発見
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 バイオ工学専攻
教授 魚住 信之
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 植物の気孔閉鎖を誘導するカリウムイオン(K+)チャネル(注1)であるGORK(注2)の立体構造を明らかにしました。
- イオンチャネルの開閉を制御する部位を新たに特定しました。
- GORKは乾燥や病原菌の侵入に対する植物の防御反応に関与しており、その実態が明らかになりました。
- 本成果は、気孔閉鎖を誘導する生物刺激剤(バイオスティミュラント)開発など、農業応用への展開が期待されます。
【概要】
植物は、気孔の開閉を通じて水分の蒸散を調節し、乾燥や病原菌などの環境ストレスに応答しています。気孔の開閉は、2つの孔辺細胞の膨張と収縮によって生じ、この膨圧変化は細胞内の主要元素であるK+の濃度に依存しています。K+の細胞内外への移動は、細胞膜に存在するK+チャネルによって制御されており、その働きが気孔の開閉に重要な役割を果たしています。
東北大学を中心とした国際共同研究チームは、K+チャネルの一種であるGORKの分子構造をクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)(注3)を用いて高精度に決定しました。さらに、GORKチャネルの活性化と不活性化状態を制御する領域を、電気生理学的測定(注4)およびCircular Dichroism(注5)を用いた解析によって明らかにしました。
本研究における構造と機能の解析は、東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻の村岡勇樹学術研究員、山梨太郎大学院生、石丸泰寛准教授、魚住信之教授らによって行われました。加えて、同大学大学院生命科学研究科の田中良和教授、横山武司助教、東京科学大学生命理工学院の古田忠臣助教、東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻の梅津光央教授、中澤光准教授、伊藤智之助教、チリ・タルカ大学のIngo Dreyer教授、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のJulian Schroeder教授による共同研究による成果です。
2025年7月23日(米国東部時間)に米国科学アカデミー紀要PNASにオンラインで掲載されました。

図1.気孔閉鎖を担うK+チャネルGORKの構造。乾燥時や病原菌感染時に、GORKによってK+が細胞外へ排出されると気孔は閉鎖する(図上部)。WT1(Pre-open状態)とWT5(Closed状態)のCNBD-Ankyrin bridge構造を示す(図下部)。
【用語解説】
注1. イオンチャネル:細胞膜を横断してイオンを透過する膜タンパク質。
注2. GORK:孔辺細胞からK+を排出するKチャネル。動物の神経・心臓で機能する膜電位依存性K+チャネルと同じ仲間。Guard cell Outward Rectifying K+ channels。
注3. クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM):生体分子を急速凍結し低温環境で電子顕微鏡観察を行う手法。
注4. 電気生理学的測定:イオンチャネルのイオン電流を実測する測定法。
注5. Circular Dichroism(CD, 円二色性):左右の円偏光の吸収の差を測定する方法。タンパク質の二次構造(αへリックスなど)の含量の解析に用いる。
【論文情報】
タイトル:Structure reveals a regulation mechanism of plant outward-rectifying K+ channel GORK by structural rearrangements in the CNBD-Ankyrin bridge
著者:Taro Yamanashi*, Yuki Muraoka*, Tadaomi Furuta, Tsukasa Kume, Natsuko Sekido, Shunya Saito, Shota Terashima, Takeshi Yokoyama, Yoshikazu Tanaka, Atsushi Miyamoto, Kanane Sato, Tomoyuki Ito, Hikaru Nakazawa, Mitsuo Umetsu, Ellen Tanudjaja, Masaru Tsujii, Ingo Dreyer, Julian I. Schroeder, Yasuhiro Ishimaru, and Nobuyuki Uozumi(山梨太郎*,村岡勇樹*,古田忠臣,久米司,関戸菜津子,寺島照太,齋藤俊也,横山武司,田中良和,宮本敦史,佐藤奏音,伊藤智之,中澤光,梅津光央,Elen Tanujaja,辻井雅,Ingo Dreyer,Julian I. Schroeder,石丸泰寛,魚住信之**)(*筆頭著者)
**責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 魚住信之
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)(オープンアクセス)
DOI:10.1073/pnas.2500070122
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻 教授 魚住信之
TEL: 022-795-7280 Email: uozumi*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室 担当 沼澤みどり
TEL: 022-795-5898 Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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