2025年 | プレスリリース・研究成果
ひずみで強く光る鉛フリー新材料の発光メカニズムを解明 インフラの老朽化をモニタリングするセンサなどの開発指針に
【本学研究者情報】
〇国際放射光イノベーション・スマート研究センター
助教 二宮翔
〇国際放射光イノベーション・スマート研究センター
(兼務)多元物質科学研究所
教授 西堀麻衣子
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 有害な鉛を含まず機械的な応力で光る新しいセラミックス材料が、特定の組成で発光が著しく増強される仕組みを原子レベルで初めて解明しました。
- 本成果は、インフラの劣化診断センサや自己発電型デバイスなどに応用される高性能な機能性材料の、新たな開発指針を示すものです。
【概要】
橋梁やビルなど長年の使用で劣化したインフラが壊れる事故が各地で起きています。人手をできるだけ使わずに事故を未然に防ぐ手段として、機械的な力が加わると発光する応力発光(メカノルミネッセンス:ML)(注1) センサで安全管理するシステムの開発が進められています。
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの二宮翔助教と西堀麻衣子教授、同大学大学院工学研究科の徐超男教授の共同研究グループは、特定の組成でML強度が異常に増強される鉛フリーの新しい多機能材料であるプラセオジム添加ニオブ酸リチウムナトリウム(Li₁₋ₓNaₓNbO₃:Pr)に着目し、これまで謎だった強い発光のメカニズムを原子レベルで初めて解明しました。
大型放射光施設(注2)を用いて精密な分析を行った結果、材料の結晶構造が変化する境界領域(モルフォトロピック相境界:MPB(注3))に生じる原子配列の特殊なゆがみと、意図的に導入される酸素欠陥(注4)が相乗的に作用し、発光性能を飛躍的に向上させていることを突き止めました。本研究成果は、橋梁などのインフラの劣化を可視光で診断する超高感度センサや、自己発電型のウェアラブルデバイスなど、未来のスマート社会を実現する高性能な多機能材料の設計に新たな道を開くと期待されます。
本成果は9月10日付(米国時間)で、米国化学会が発行する電子材料専門誌ACS Applied Electronic Materialsに掲載されました。

図1. Li₁₋ₓNaₓNbO₃:Pr材料の組成と発光強度の関係。材料に含まれるNaの比率(横軸)を精密に制御すると、特定の組成(x=0.9付近、黄色の領域)で応力発光の強度(ML強度、青線)が急激に増大する様子。この領域では、原子配列の特殊なゆがみと酸素欠陥が最大化しており、両者の相乗効果で発光が強くなることを突き止めました。
【用語解説】
注1.メカノルミネッセンス(ML): 材料に機械的な力(圧縮、摩擦、衝撃など)を加えた際に発光する現象。力の可視化センサなどへの応用が期待される。本研究は、弾性域におけるML(応力発光)を対象にしている。
注2.大型放射光施設: 電子を光速近くまで加速させ、その際に発生する非常に明るい光(放射光)を用いて、物質の構造や機能を原子・分子レベルで分析できる研究施設。
注3.モルフォトロピック相境界(MPB): 材料の組成を変化させた際に、異なる結晶構造が共存する境界領域。この領域では圧電特性などが向上することが知られている。
注4.酸素欠陥: 結晶構造の中で、本来酸素原子があるべき場所から酸素が抜けている状態のこと。材料の電気的・光学的特性に大きな影響を与えることがある。
【論文情報】
タイトル:Atomic-Level Insights into Morphotropic Phase Boundary Effects on Mechanoluminescence in Li₁₋ₓNaₓNbO₃:Pr Multi-Piezo Materials
著者:Kakeru Ninomiya, Chao-Nan Xu, and Maiko Nishibori
掲載誌:ACS Applied Electronic Materials
DOI:10.1021/acsaelm.5c01268
URL: https://doi.org/10.1021/acsaelm.5c01268
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 国際放射光イノベーション
・スマート研究センター(兼)多元物質科学研究所
教授 西堀 麻衣子(にしぼり まいこ)
TEL: 022-752-2346
Email: maiko.nishibori.d8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学 大学院工学研究科
教授 徐 超男(じょ ちょうなん)
TEL: 022-795-7348
Email: chao-nan.xu.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)
総務係
TEL: 022-752-2331
Email: sris-soumu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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