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加齢による寄生虫排除不全には2型免疫の低下と腸内フローラの応答鈍化が関与している

【本学研究者情報】

〇大学院農学研究科 助教 大坪和香子
ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 腸管寄生虫を排除するために必要となる「2型免疫(注1)」は加齢によって弱まるため、寄生虫感染が持続してしまいます。
  • 若いマウスに腸管寄生虫を感染させると「腸内フローラ(注2)」の構造変化や腸管内の「短鎖脂肪酸(注3)」の増加、2型免疫の「サイトカイン(注4)」遺伝子の発現の上昇が起こりましたが、高齢のマウスではこのような寄生虫に対する応答が鈍化していることが明らかになりました。
  • 2型免疫の低下を予防するためには、加齢による腸内フローラの乱れを食生活の改善等により抑制することが重要であることが示唆されました。

【概要】

加齢による免疫力の低下は「免疫老化」と呼ばれます。腸管への寄生虫感染を排除する際に必要となる「2型免疫応答(注1)」も、加齢によって低下します。腸管寄生虫が感染すると、若齢マウスでは2型免疫応答を担うサイトカイン遺伝子の発現が大きく上昇しますが、高齢マウスではこれが起こりません。

東北大学大学院農学研究科の大坪和香子助教(JST創発研究者)と宮城大学食産業学群生物生産学類の森本素子教授の共同研究グループは、寄生虫感染時において、若齢マウスでは「腸内フローラ(注2)」の構造の変化や「短鎖脂肪酸(注3)」の増加が起こるのに対し、高齢マウスではこのような腸内フローラの特異的応答が鈍化していることを明らかにしました。これは、加齢による腸内フローラの乱れ(ディスバイオーシス)が、正常な2型免疫応答を妨げる可能性を示唆しています。

本研究は2025年8月26日付で学術誌Scientific Reportsのオンライン版に掲載されました。

図1. 本成果の概要。腸管寄生虫を感染させると引き起こされる特異的な腸内フローラの変化や2型免疫サイトカインの発現上昇、短鎖脂肪酸の増加とそれによるレセプターGPR41の活性化は、加齢マウスでは起こらない。このような免疫・腸内フローラ応答の「鈍化」が腸管寄生虫の排除不全を引き起こしていると考えられる。

【用語解説】

注1. 2型免疫:タイプII免疫とも呼ばれ、2型ヘルパーT細胞が中心となり、2型サイトカインIL-4/5/13を介して好酸球・肥満細胞等を活性化し寄生虫排除に働く免疫応答。アレルギー反応にも中心的役割をもつ。

注2. 腸内フローラ(Gut microbiota):腸内細菌叢と同義。腸管内に生息する、数百種類、数百兆個に及ぶと言われる微生物の群集で、菌体や代謝産物が宿主と相互作用することにより代謝や免疫に大きな影響を与える。

注3. 短鎖脂肪酸(SCFA, Short-chain fatty acids):腸内細菌が食物繊維等を分解・発酵して産生する酪酸・酢酸・プロピオン酸などの低分子脂肪酸。

注4. サイトカイン:免疫細胞などが分泌する生理活性物質で、細胞間の情報伝達や免疫応答の調節を担う。

【論文情報】

タイトル:Aging impairs type 2 immune responses to nematodes associated with reduced gut microbiota responsiveness
著者:Motoko Morimoto*, Sota Tanaka, Kyoko Jinguji & Wakako Ikeda-Ohtsubo*
*責任著者:東北大学農学研究科 助教(JST創発研究者)大坪和香子
*筆頭著者、責任著者:宮城大学食産業学群生物生産学類 教授 森本素子
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-16730-x

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院農学研究科
助教・JST創発研究者 大坪和香子
TEL: 022-757-4375
Email: wakako.ohtsubo*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院農学研究科
総務係
TEL: 022-757-4003
Email: agr-syom*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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