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 本日ここに、晴れて学位を授与された皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して心よりお祝いを申し上げます。また、ここに至るまでの皆さんを支えてこられたご両親、ご家族、関係者の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。

 昨年3月11日に発生した東日本大震災から1年半余が経ちました。大震災は、日常生活の中で当たり前に存在した大切な人、大切な物、大切な場所とのつながりを一瞬にして破壊しました。誰しもが「3月10日に戻れたら」と思いながら、現在でも33万人の方々が避難を強いられたままです。
 大震災は被災地の日常生活を喪失させただけではなく、既存の統治機構やマスメディアなど社会システムの機能不全を露呈させ、日本のリーダーや科学者の信頼も失墜させました。私たち大学の存在意義もその例外ではありません。阪神・淡路大震災で被災した作家の小田実氏は被災直後、「自然災害は事物にまつわる一切の虚飾をその巨大な力で削ぎ落として、事物の本質、真の姿を見せる」と記しています。私たちは今改めて、自らの原点から考え直すことを迫られています。
 皆さんも様々な思いをもち、それぞれの体験を経て今日の日を迎えていることと思います。この悲劇的な惨禍を体験して生き延びることができた私たちは、生かされていることの意味を問いかけながら、「今の困難」を乗り越え、「より良き未来」を創造していくことで、復興、日本新生、そして地球社会の持続的成長に向けて、力を注ぐ義務があると思います。特に可能性を秘めた若き皆さんには、人間は自然の脅威にどのように向き合っていくのか、大学や学術は復興・再生にどのように寄与していくのか、そして困難なこの時代に面して各々が自覚的に何をしていくのかが問いかけられています。
 本日は、東北大学を卒業し新たな一歩を踏み出す皆さんに、私が感じている思いをいくつか述べさせていただきます。
 現代社会が、国内的にも国際的にも大きな試練の時期に入っていることは、皆さんも感じとっていることと思います。
 国内を見ると、大震災からの復興、エネルギー不足への対処、GDP200%に達する公的債務の削減、少子高齢化のもとでの社会保障の抜本的改革など、切羽詰まった真剣勝負が求められています。目を世界に転じると、経済危機をはじめ、環境汚染、食糧問題、パンデミックなど、空前のスケールで展開する深刻な課題に直面しています。
 したがって、「明るい未来は何か」と考えてみても、即時に想起できないというのが現実かもしれませんし、それどころか、ますます危機が深まっていると不安を感ぜざるを得ないというのが本音のところかもしれません。しかし、歴史を振り返ってみると我が国にとって今回が3度目の開国といわれるように、パラダイムシフトや国家的な危機はいつの時代にも起こるものです。そしてそれを乗り越えて新しい発展をもたらすのは常に若い力であります。したがって、皆さんにはこのような困難な時にこそ、一層、『社会的存在として社会の負託に応えよう』という真のエリートとしての矜持を強く持ち続けてほしいと思います。
 今、大学や学術の在り方が世の中から厳しく問われています。過去に、これほどまでに大学や学術への信頼が揺らいだ時代はなく、またこれほどまでに多くの大学に対する改革の要求や要請が寄せられた時代もありません。
 科学者の研究は、知的好奇心に依拠して行われるのが最も純粋です。ただ、今回の大震災を契機として、これまで信じられていた科学者の研究が社会に進歩と安心をもたらし、社会は学術そのものの進歩に絶対的な信頼を置くという関係が、実は幻想ではなかったかとの疑問が投げかけられています。科学の成果が研究室の空間から社会へと出て行くとき、それが社会において現実の使用に耐え得るものか、それが予期せぬ結果をもたらしたとき、科学者は免責され得るものかなど、新たな問題が明らかになってきました。そのようなことを考えてみると、研究は真理の追究という大命題のもとにあって、その動機は内発的なものであることを前提としながらも、同時にそれが社会に好ましい影響を与えるものであってほしいとする社会の負託に応えるものでなければならないと思います。
 つまり、大学も学術も「社会とともにあり、社会のためにある」という前提で、大学は自ら創造した知見を社会に還元しなければ、その後の発展に繋がらないということを、今一度認識しなければなりません。大学の研究教育活動は“Social Good”(社会全体にとって良いこと)を創造していかなければならないものなのです。
 このことは本日学位記授与式を迎えた皆さんにも言えることです。かのアインシュタインは「人間は、孤独な存在であるのと同時に、社会的な存在なのです。」という言葉を残しています。本日、皆さんはそれぞれの専門分野で深い研鑽を積み高い学識を得て巣立っていきます。明日以降、皆さんが取り組む次のステージにおける活動が、社会的にどういう意味を有する営みであるかを踏み込んで考え、行動してもらいたいと思います。

 次に、我が国の抱える問題として、総合的な判断力を有するリーダーを養成してこなかったこと、特に国際的に活躍できる人材の欠如が指摘されます。このことは大学にも大きな責任があります。
 今日、私たちが生活している「社会」は、特定の国家や地域という領域を越えて、国際社会・地球社会という様々な文明が集まる共通の広場へと拡大しています。そこでは、資金が大陸間を自由に流れます。物もサービスも科学技術も同様です。不幸なことに、テロ、パンデミック、環境破壊、自然災害などの問題も自由に国境を越えます。
 アメリカのジャーナリストであるトーマス・フリードマンは、「グローバル化のおかげで、私たちはかつてないほどお互いを知るようになったが、互いについては相変わらずそれほど知らないのである。」と記しています。科学の発達により情報や人の移動が飛躍的に早まり、その結果として接触が深まったがゆえに、かえってお互いの軋轢が増えている現代社会の悲劇を適切に表現した言葉です。
 いかなる国家も国境警備だけで国民を守ることはできません。すべての国家が相互依存関係の中で成立する地球社会は、人々が国境を越えた様々な国の歴史と多様な価値を理解しない限り、人類が直面する課題を何一つ解決できないのです。
 では、この地球の相互連結性を理解し、すべての人々のために行動する意欲をもった地球市民となるには何が必要なのでしょうか。
 一言で言えば、それは『他者の視点でモノを見る、モノを考える』ということではないかと思います。そうすることで、私たちは自分自身をもっと知ると同時に、他者との連帯を築き上げて、地球規模の課題を解決することができるようになるのです。
 ここで理解しなくてはならないのは、私たち一人ひとりの視点には、文化や地理的条件が影響するということです。二人で同じ世界を見ても、理解の仕方はそれぞれ違います。そしてどちらも間違ってはいません。重要なのは、どちらが正しいかを決めることではなく、自分とは異なる他者の視点を認めるという多様性の価値観を共有することなのです。
 皆さんはこれまでの大学生活の中で、様々なことを学びかつ研究を行うことで、自分自身の考えを深めるとともに、学問や思想にも、また解決への道筋にも多様性があることを学んできたと思います。大学が長い歴史の中で常にその自治を主張してきたのは、時の権力や権威による画一化を拒否し、思想や学問の自由を守ることで、大学自身の多様性を保つためであったことを今一度思い起こす必要があります。東北大学はそのような多様な人材を育てる努力の一助として、建学以来、時の政府の圧力を排して門戸開放を実践してきました。本学で学んだ皆さんには今後とも自分の視野を広げ、他者とのつながりを学び、世界中の活動が自分たちに影響していること、また自分たちの活動も世界に影響を及ぼすことを理解して、新しい平和な人類社会を創出する国際的なリーダーに育っていってほしいと願っています。

 東北大学は世界各国からの学生が学ぶ大学です。本日学位を授与された外国人留学生は145人、学位記授与者のおよそ51%を占めます。留学生の皆さんには、いろいろな面で自国とは異なる我が国の文化に触れ、戸惑ったことも多かったのではないかと思っています。皆さんが感じた我が国の本当の姿を皆さんの国に伝えて、できるならばこの日本を、そしてこの東北大学を第二のふるさととして、母国と日本、そして地球社会の発展に貢献していただきたいと思います。本日の学位記授与式には多くの留学生の皆さんが出席されていますので、ここで簡単に英語により送別の言葉を述べたいと思います。
 Now, I would like to switch from Japanese to English, because we have many international students. I would like to talk directly to you in English.
 It is my great pleasure to hold the 2012 Fall Graduation Ceremony of Tohoku University in the presence of the Academic and Executive Staff Members. I am delighted to express my sincere congratulations on your successful completion of your courses in the Undergraduate and Graduate schools.
 In this age of progressive globalization, it is imperative that you all acquire not only the basic skills and knowledge necessary to survive as global citizens, but also the ability to understand various cultures and the diversity of societies.
 The diplomas conferred on you today certify that you have acquired both a degree of expertise and a broad perspective. They also certify your ability to address the important issues that confront our society.
 I sincerely hope that your experiences and achievements at Tohoku University shall help you contribute to the development of your countries and to world peace through your forthcoming activities.
 Finally, I wish to reiterate my hearty congratulations to all of you, and wish you all good luck in the future.
 Thank you very much for your attention.

 東北大学は毎年10月初めにホームカミングデーを開催しています。大学は社会のために活躍している皆さんの元気な姿を拝見することを楽しみにしております。卒業生の皆さんには是非お集まりいただき、交流の輪を広げていただければと思います。
 最後に、本日ここに学士の学位を授与された28名の皆さん、修士の学位を授与された105名の皆さん、専門職の学位を授与された5名の皆さん、そして博士の学位を授与された148名の皆さん、皆さんのこれからの更なるご活躍をお祈りして、また、皆さんが東北大学の卒業生であることを終生の誇りとして生きられんことを祈念して、私からの告辞を終えることといたします。
 本日は誠におめでとうございます。

 

平成24年9月25日   東北大学総長   里 見   進   

(於:川内萩ホール)   

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