本文へ
ここから本文です
里見進総長

新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

昨年は本学にとっていくつかの大きな出来事がありました。
 まず一つ目は3月に仙台で開催された国連防災世界会議です。本学からも多くの部局が参画しました。本学主催のシンポジウムでは潘基文国連事務総長にご講演をいただきましたし、「兵庫行動枠組」に続く防災指針として採択された「仙台防災枠組」には、災害科学国際研究所の先生方の考え方が様々に反映されたと聞いています。また、国連とはこの間の活動を介して強い連携が築かれ、災害科学国際研究所内に国連の災害に関する統計センターを設置いたしました。今後は世界から寄せられる災害データを解析し、効果的な防災対策を各国に提示することで、世界に貢献できる組織に成長していくものと期待しております。
 二つ目は地下鉄東西線の開業です。本学のキャンパスに関連して仙台国際センター、川内、青葉山の三つの駅が設けられました。東北大学の各キャンパスは通学や通勤が便利になり、これまで以上に一体感を持って運営されるようになりました。また、仙台駅から一番遠い青葉山駅まで9分しかかかりません。東京駅から仙台駅まで新幹線で最短で1時間35分ですので、本学は東京とも2時間以内に結ばれることになりました。首都圏との人的交流がさらに加速するものと思われます。

東日本大震災後5年近くが経過する中で、本学の建物や設備の復旧・整備が進み、教育・研究機能は震災前と同等のレベルまで回復しました。
 各キャンパスの状況を概説しますと、片平キャンパスでは電気通信研究所の新しい研究棟が竣工しました。スペースや装備の面で研究環境が大幅に改善されましたので、本学の代表的な研究所として、これまで以上に世界的な研究成果を上げてくれると期待しています。また新しい試みである知の館も整備されました。ここには世界の著名な研究者を招聘し、一ないし三カ月滞在していただき、その間にシンポジウムなどを集中的に開催するとともに、若手の研究者や大学院生が招聘者と自由に討論できるようにしました。壁面がすべて黒板になっている部屋を設けましたので、そこで自由に図や数式を書きながら、コーヒーを片手に活発な議論を楽しんでいただければと思います。本学の若手研究者が、知の館を介して世界的な研究者と知り合いになることで、世界に羽ばたくきっかけになれば幸いです。
 川内キャンパスでは文系の講義棟や事務棟、図書館の整備などが行われました。少人数でのアクティブラーニングなど、教育方法の変化に対応して講義や図書館の利用法は大きく変わり、勉学に適した環境が整備されてきました。カフェなどの福利厚生施設も同時に整備され、地下鉄川内駅からキャンパスへの通路も快適になりました。また、今年度末には、室内プールを完備した課外活動の拠点も完成する予定です。
 星陵キャンパスでは、昨年は医学部と病院がそれぞれ創設100周年、歯学部が創設50周年の記念の年に当たり、記念式典が開催されました。9月に竣工した星陵オーディトリアムは、福利厚生施設と講堂を備えた瀟洒な建物で、200名程度の講演会を開催するには最適です。星陵地区は震災後、東北メディカル・メガバンク棟をはじめとして多くの建物が建設されましたが、現在も病院の中央診療棟や立体駐車場の建設が進行しています。平成29年度末には21世紀にふさわしい近代的な手術室が整備されますし、朝の交通渋滞も大幅に緩和されると思います。星陵キャンパスは大きく変わろうとしています。
 青葉山キャンパスは新キャンパスへの移転計画もあり大きく変貌しています。一昨年は工学部の三つの研究棟や災害科学国際研究所、国際集積エレクトロニクス研究開発センターなどが整備され、昨年度は理学部の新研究棟、レアメタル・グリーンイノベーション研究開発センター、レジリエント社会構築イノベーションセンターなどが次々に竣工しました。現在も農学部の総合研究棟や動物実験施設、アカデミック・サイエンスコモンズ、環境科学研究棟が建設中です。本学の一大事業である農学部移転は、平成29年初めには建物が完成し、4月からは新しいキャンパスで再出発する予定になっています。本年以降も青葉山の環境整備は進行し、保育所などの福利厚生施設、留学生と日本人学生が混住するユニバーシティ・ハウスの建設などが予定されています。

本年3月には震災後満5年になりますので、災害復興新生研究機構の下で実施されている8大プロジェクトのいくつかは終了することになります。これらのプロジェクトは成果の取りまとめと今後の展開が課題となります。また、次年度以降の継続が約束されているプロジェクトも進捗状況を厳しく審査されることになります。日本列島自体がマグマの活動期に入ったのか地球温暖化の影響なのか定かではありませんが、自然災害の頻度や規模が年々大きくなっているように思えます。震災後に新しい機構を立ち上げた本学には、次の災害へ備える有効な提言を行うことが求められています。また、被災地域の復興のために新たな雇用の場所を生み出す産業の創生も期待されています。国連防災世界会議で提示した研究成果を発展させるとともに、今年から可能になった大学の出資事業などを活用し、新しい産業を東北の地に生み出していかねばならないと考えます。

早いもので、私の総長としての任期も、残り2年余となりました。本年は、これまで実施してきた教育・研究・社会貢献・ガバナンス改革などを一層推進し、変化が見える年にしたいと考えています。昨年末に、これからの2年余の行動指針を明確にするため、里見ビジョンを改訂しました。その中では教育・研究の一層の国際化を目指す方策や、昨年からスタートした国際共同大学院制度の充実、高等研究機構の整備、大学全体で産学連携の体制を整備することなど、さまざまな試みが数値目標と共に明記されています。大学全体としての意思を共有する意味からも、皆さんには是非一読されるようにお願いいたします。

大学に対する社会の期待は大きいものがありますが、大学をめぐる社会の視点はなお厳しいものがあります。平成28年度は運営費交付金が今年度と同じ額を配分されるとの報道がありました。確かに今年度までの運営費交付金(一般、特別、特殊要因運営費交付金を合算)と同じ額が予算化されることは間違いないのですが、大学として最も維持してもらいたかった一般運営費交付金(基幹経費と名称変更)には機能強化促進係数がかけられ(三つの類型によってその係数は異なるが、本学の場合は▲1.6%)、その分が減額となりました。そして減額分は機能強化促進分として配分されるので、運営費交付金の総額は維持されます。しかし、機能強化促進分は使途が限定されていますので、大学として各部局へ配分する教育研究活動に必要な基盤的予算(基盤経費)はこれまで以上に減らさざるをえません。また、高等教育局の予算もかなり減額されましたので、補助金として大学に配分される予算も少なくなります。平成28年度予算では、運営費交付金の総額が減少する流れを止めることができました。次年度以降は基幹経費を維持または増額させることが重要になります。
 一方、寄附税制の改正も行われましたので、個人からの寄附は募りやすくなります。国立大学も自立を本気で考える時代に突入したと覚悟し、企業との共同研究の大型化など外部資金を導入する方策を講じなければなりません。

本学が久しく受賞から遠ざかっているノーベル賞の受賞者が2人も一度に出て、対応にてんてこ舞いしている縁起の良い初夢を期待しましたが、そのような初夢にはなりませんでした。夢では無く現実の出来事として、秋には受賞のお祝いの会が開かれることを期待したいと思います。また、学生諸君には今年も七大戦に勝利し、4連覇を達成してもらいたいと思います。
 今年の干支である申は草木が十分に伸び茂り、固い殻の中で穀物が香りや味を蓄えることを意味するそうです。豊かな実りを準備する一年として充実した年になるように一緒に頑張りましょう。

平成28年1月4日

sign.png

東北大学総長

このページの先頭へ