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脂肪燃焼体質を作るには、寒さの感知とエピゲノムの変化が重要

恒温動物は寒冷環境に適応するしくみを持っていますが、この際に重要な役割を持つのが脂肪細胞です。急激に環境の温度が低下すると交感神経系が活性化し、褐色脂肪細胞(注1)で脂肪が燃焼され、熱が産生されます。一般によく知られている白色脂肪組織は、エネルギーを脂肪として貯めることが主たる役割であるため熱産生能を有しておらず、熱産生に関与する遺伝子(注2)も発現していません。しかし、寒冷環境が長期に持続すると、白色脂肪組織でも、脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子が誘導され、寒冷環境に個体が耐えられるよう適応します。

本来、細胞には「エピゲノム」というゲノムの後天的な調節機構が備わっており、エピゲノムのしくみにより細胞の種類ごとに働く遺伝子(活動中)と働かない遺伝子(休止中)が明確に決められています。脂肪を貯める機能を担う白色脂肪細胞では、通常は脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子は「休止中」で、働くことができません。では、恒温動物が長期の寒冷刺激を受けると、どのようにして遺伝子に寒冷環境に適応した体質への変化を促すのでしょうか?

東京大学先端科学技術研究センター/東北大学 大学院医学系研究科の酒井寿郎 教授、群馬大学生体調節研究所の稲垣 毅 教授、学術振興会特別研究員の阿部陽平、東京大学大学院薬学系研究科大学院生の藤原庸右および東京大学大学院医学系研究科大学院生の高橋宙大らの研究グループは、遺伝子がエピゲノムによって通常は「休止中」となっている白色脂肪組織に着目し、慢性の寒冷刺激による脂肪組織のベージュ化過程におけるエピゲノム解析を行いました。寒冷刺激を受けるとアドレナリン作用によってヒストン脱メチル化酵素JMJD1A(注3)がリン酸化され、寒冷刺激が持続すると必要な機能を獲得したJMJD1A がエピゲノム変化を介して「休止中」だった脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子群を「活動中」にし、遺伝子を発現させて、ベージュ化を誘導し、寒冷環境に慢性的に適応するしくみがあることがわかりました(図)。本成果は、肥満や生活習慣病に対する新規治療法の開発に応用できるものと期待されます。

本研究は、文部科学省 科学研究費 基盤研究(S)「環境因子とエピゲノム記憶による生活習慣病発症の解明」、新学術領域研究「温度生物学」、文部科学省の産学連携プログラムである先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラム「システム疾患生命科学による先端医療技術開発」等の支援のもとで行われたものです。本研究成果は国際科学誌 Nature Communications に2018年4月19日付オンライン版で発表されます。

(注1)褐色脂肪細胞:一般的によく知られている白色脂肪細胞は脂肪の蓄積を行うのに対し、褐色脂肪細胞は体を震わせないでからだの熱を産生することが可能である。

(注2)熱産生に関与する遺伝子:交感神経から分泌されるノルアドレナリンなどの受容体である β アドレナリン受容体(Adrb1)や、ミトコンドリアにある脱共役タンパク質(Ucp1)など、熱を産生するために必要な鍵となるタンパク質群をコードする遺伝子群を示す。

(注3)JMJD1A:ヒストン脱メチル化酵素の一つで、エネルギー消費、性決定、腫瘍形成、低酸素による応答など、環境変化に多様に応答して機能する。

図:エピゲノム変化と細胞の質の変化がもたらす寒い環境への慢性的な適応のしくみ

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問い合わせ先

<研究内容に関するお問い合わせ先>
東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野
東北大学 大学院 医学系研究科 細胞生物学講座 分子生理学分野
教授 酒井 寿郎(さかい じゅろう)
Email:jmsakai-tky*umin.ac.jp(*を@に置き換えてください)
電話:03-5452-5472/FAX:03-5452-5429 (東京大学 先端科学技術研究センター)
電話:022-717-8117/FAX:022-717-8118 (東北大学 医学部)

<広報担当者連絡先>
東北大学 大学院医学系研究科・医学部 広報室
電話:022-717-7891/FAX:022-717-8187
E-mail:pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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