2019年 | プレスリリース・研究成果
自分の身体に気づくための二つの処理過程を発見 リハビリテーションなど身体認知のメカニズム理解へ
【発表のポイント】
- 見ている手を自分の手であると気づくとき、人間は以下の二つを経験し、同じ処理過程から生じると仮定されていました。
- 見ている手を自分の身体の一部だと感じる。
- 見ている手の位置に自分の手があると感じる。
- 自己身体の気づきにおける、これら二つの経験が、視覚と体性感覚の異なる処理過程に依存していることが本研究で判明しました。
- 本成果は、人間の心の最も重要な特徴の一つである自己身体の気づきを理解する上で、有益な情報となる可能性があります。
【概要】
東北大学大学院情報科学研究科の松宮一道教授は、「自己身体の気づき」(自分の身体認知)に関して、体性感覚(注1)処理と視覚処理で得られた情報が一つの統合的な処理過程で認識されるとする従来の説に対して、今回、目に見える「物理的な身体」ではなく、目に見えない「心の中の身体」を、バーチャルリアリティ技術を用いた実験心理学的手法により解明し、「身体所有感」(注2)と「身体定位」(注3)の二つの処理過程で認識されていることを新たに発見しました。本発見は、運動機能障害のリハビリテーションや身体能力開発などの分野において、新しい知見をもたらす画期的な成果です。
社会の高齢化に伴い、加齢による運動機能障害や脳卒中による運動麻痺を有する患者の急増は、現代社会が抱える課題となっています。 特に従来のリハビリテーションでは、治療的介入により運動機能が向上しても、その向上効果が持続しないことが多く、これが運動機能障害を有する高齢者の社会復帰を阻む要因となっています。運動機能障害を克服する有効な手段を講じることは、高齢者の生活品質(QOL:Quality Of Life)を向上させるために緊急に対応すべき重要課題です。
本研究では、情報科学の観点から人間の身体認知のメカニズムを解明して、運動機能障害や心理的発達障害などの治療に役立てることを目標としています。運動機能障害を有する患者は、心の中で感じている自分の手や足に異常が生じており、この「心の中の身体」の回復が運動機能障害を克服する鍵を握っています。
本研究では、被験者自身の手は見えないようにし、その代わりにコンピュータグラフィックスにより作成された手(CGハンド)を提示し、CGハンドに対して身体所有感を制御できる実験環境を構築し、「自己身体の気づき」のメカニズムを解明しました。
本成果は、二つの乖離した自己身体の気づきの処理過程の存在を初めて明らかにするもので、運動機能回復のためのリハビリテーションに重要な役割を果たしている身体認知のメカニズムを理解する上で重要な発見となりました。
この発見により、運動機能障害を有する患者の心の中で感じている自分の手や足の異常の度合いや、事故などにより身体の一部を失った患者さんが装着する義手や義足などの自己身体への帰属の度合いを評価するための指標作成の新たなガイドラインを提供する可能性があり、運動機能回復のリハビリテーションに画期的な効果が期待できます。
本研究は、2019年1月24日英国時間午前10時にScientific Reports(電子版)に公開されました。なお、本成果は、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業さきがけ、日本学術振興会・科学研究費補助金、日立製作所・産学連携研究によって得られました。
【用語説明】
注1:体性感覚 体性感覚は、皮膚の受容器からの感覚や、筋骨格系の受容器から得られる手足などの位置感覚から成る。
注2:身体所有感 心の中で主観的に感じている自分の身体に対する意識的経験のことを指す。自分の手を見たときに、私たちはその手が自分の身体の一部に属していると感じる経験。
注3:身体定位 自分の身体部位の空間的位置知覚のことを指す。例えば、私たちは自分の手が空間内のどこにあるのかを容易に答えることができる。このような知覚を身体定位と本研究では定義した。
図1.自己身体の気づき
手などの身体部位から得られる視覚情報と体性感覚情報を脳内で統合することで、見ている身体部位を自分の身体の一部であると認識することができる。
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学 大学院情報科学研究科
教授 松宮一道
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E-mail: matsumiya*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
<報道担当>
東北大学 大学院情報科学研究科 広報室
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E-mail: koho*is.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)