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ヒト由来カルシウムポンプの高分解能構造と活性制御機構を解明 ~細胞内カルシウム恒常性維持機構の破綻が引き起こす疾病の原因解明に光~

【発表のポイント】

  • 細胞中のカルシウムの恒常性維持に重要な小胞体膜局在カルシウムポンプSERCA2bの結晶構造を世界で初めて明らかにした。
  • SERCA2bに特徴的な11番目の膜貫通ヘリックスが、他の膜貫通へリックス領域と分子内相互作用することで活性を制御するという、カルシウムポンプの新しい活性制御機構モデルを提唱した。

【概要】

東北大学多元物質科学研究所の井上道雄助教、渡部聡助教、稲葉謙次教授(生命科学研究科、理学研究科化学専攻 兼担)、および奈良先端科学技術大学院大学の塚崎智也教授、大阪大学の高木淳一教授、東北大学未来科学技術共同研究センター/東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授、京都産業大学の永田和宏教授らを中心とした共同研究グループは、JST戦略的創造研究推進事業において、筋収縮の制御やアポトーシスの誘導など、様々な生命現象において重要な役割をもつカルシウムイオンの恒常性を保つ上で必須のカルシウムポンプSERCA2bの高分解能構造を世界で初めて明らかにしました。

細胞小器官の一つである小胞体は、細胞内での適切なカルシウムイオン濃度を維持するために、カルシウムを取り込み、蓄える働きがあります。SERCA2bはこのカルシウムの取込みを担い、全組織に広く発現している膜たんぱく質です。骨格筋や心筋に特異的に発現するSERCA1a(SERCA2bのアイソフォーム注1)やSERCA2a(SERCA2bのスプライシングバリアント注2)とは異なり、SERCA2bには11番目の膜貫通ヘリックス(TM11)を含む特徴的なC末端領域があります。このC末端領域によってSERCA2bの活性が制御されることは過去に報告されていますが、その詳しいメカニズムは分かっていませんでした。

我々は、SERCA2bの立体構造をX線結晶構造解析注3によって決定し、TM11がこれまでの予想とは全く異なる位置に存在することを明らかにしました。TM11は、SERCA2b分子内でL8/9ループとTM10の一部と相互作用することが構造から分かり、アミノ酸の変異体解析によって、これら分子内相互作用がSERCA2bの活性制御に重要であることが明らかとなりました。また、同じ手法で決定したSERCA2aの立体構造と比較したところ、SERCA2bのTM11によって膜貫通へリックス領域の動きが抑えられることが示され、この動きの抑制がSERCA2bの活性を制御することを考察しました。これらの成果によって、SERCA2bの他のカルシウムポンプとは異なる活性制御のメカニズムが原子レベルで明らかとなりました。

本研究成果は、2019年4月23日11時(アメリカ東部時間)に米国科学誌Cell Reportsに掲載されました。

【用語解説】

注1)アイソフォーム:
基本的な機能に関する構造またはアミノ酸配列は同じだが、一部が異なっているたんぱく質。異なる遺伝子から発現する。

注2)スプライシングバリアント:
同一の遺伝子から転写過程においてエキソンの組み合わせを変えることで生じる多様なmRNAをもしくはたんぱく質をスプライシングバリアントと呼ぶ。

注3)X線結晶構造解析:
分子の構造を高分解能で決定する手法の1つ。分子が規則正しく並んだ結晶に強いX線を照射すると回折という現象が起こり、回折データを解析することで、結晶を構成する分子の構造を原子レベルで決定することができる。

図1 SERCA2bとそのアイソフォームSERCA1a/SERCA2aの簡略図
SERCA2bは11個の膜貫通ヘリックス(TM1~TM11)を有しており、C末端は小胞体内腔側に位置する。一方、アイソフォームのSERCA1aやスプライシングバリアントのSERCA2aは、10個のTMヘリックス(TM1~TM10)を有するため、C末端は細胞質側に存在する。11番目のTMヘリックス(TM11)とそれに続くC末端テール領域が、SERCA2bの活性制御において重要な役割をもつと考えられてきた。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 教授
稲葉 謙次(いなば けんじ)
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2 丁目 1-1
Tel: 022-217-5604
E-mail: kenji.inaba.a1*tohoku.ac.jp, kinaba*tagen.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道担当に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
伊藤 智恵(いとう ともえ)
Tel: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 大学院医学系研究科・医学部 広報室
Tel: 022-717-7891
Fax: 022-717-8187
E-mail: pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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