2019年 | プレスリリース・研究成果
温故知新:古い薬に全く新しい肺動脈性肺高血圧症の治療効果を発見 - アカデミア創薬スクリーニングの成果 -
【発表のポイント】
- 国の指定難病である肺動脈性肺高血圧症注1について、病状が進行した患者に対する本質的な治療薬の開発が求められている。
- 肺動脈性肺高血圧症患者の由来の培養細胞を用いて化合物ライブラリーを探索した結果、催吐薬の主成分として知られるエメチン注2を同定した。
- エメチンは、炎症抑制作用や酸化ストレス注3抑制作用を持ち、肺高血圧症モデル動物で顕著な治療効果を示すことを発見した。
【概要】
東北大学 大学院医学系研究科 循環器内科学分野の下川 宏明(しもかわ ひろあき)教授、佐藤 公雄(さとう きみお)准教授、Mohammad Abdul Hai Siddique研究員の研究グループは、国の指定難病である肺動脈性肺高血圧症の新規治療薬を探索するため東北大学化合物ライブラリー5,562種類の網羅的探索を行い、催吐剤の主成分であるエメチンが肺動脈性肺高血圧症に対して治療効果を示すことを世界に先駆けて発見しました。肺動脈性肺高血圧症の病因として、肺動脈の細胞(血管平滑筋細胞)が癌細胞のように増殖してしまうことが知られていますが、エメチンは肺動脈性肺高血圧症患者由来の細胞の増殖を抑制しました。さらに、エメチンが炎症抑制作用や酸化ストレス抑制作用を持ち、肺高血圧モデル動物において顕著な治療効果を示すことを確認しました。本研究により、根本的な治療薬のない肺動脈性肺高血圧症に対する臨床応用が期待されます。本研究は、東北大学大学院薬学研究科と協力して行われ、アカデミア創薬スクリーニングによる全く新しい肺高血圧症治療薬開発の一連の成果です。本研究成果は、9月19日(米国東部時間、日本時間9月20日)に米国心臓協会(American Heart Association, AHA)の学会誌であるArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 誌(電子版)に掲載されました。
図1.スクリーニング方法
肺動脈性肺高血圧症患者由来の癌類似の増殖性を示す肺動脈血管平滑筋細胞に対して、ハイスループットスクリーニング機器を用いて5,562種類の化合物を添加し、化合物による増殖抑制能を評価しました。
【用語解説】
注1. 肺動脈性肺高血圧症:心臓から肺に向かう肺動脈の内圧(血圧)が異常に上昇する疾患。肺動脈壁を構成する平滑筋細胞の異常増殖により血管抵抗が上昇し、肺動脈圧が上昇する。その原因は未解明な点が多く、国の指定難病に認定されている。
注2. エメチン:催吐薬及び抗原虫薬として用いられる薬品。トコンの根から抽出される。
注3. 酸化ストレス:反応性に富む活性酸素の産生と解毒のバランスが崩れた状態のこと。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科循環器内科
教授 下川 宏明(しもかわ ひろあき)
電話番号:022-717-7152
Eメール:shimo*cardio.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール: pr-office*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)