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巨大ブラックホールの種になる星たち 大規模シミュレーションが描く新しい形成メカニズム

【発表のポイント】

  • ほぼ全ての銀河の中心には普遍的に巨大ブラックホール(注1)が存在するが、その起源は現代天文学の大きな謎であり、従来の説では、巨大ブラックホールのうち一部の特殊なものの起源しか説明できていなかった。
  • 今回、炭素、酸素等のより重い元素を含んだ物質を材料とした場合にも巨大星の形成が可能となることを、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いたシミュレーションにより明らかにした。
  • 従来の説に比べ、はるかに多くの巨大ブラックホールの起源を説明することが可能となり、銀河中心に存在するブラックホールを単一の起源で説明できる可能性を拓いた。

【概要】

東北大学大学院理学研究科の鄭昇明研究員(日本学術振興会特別研究員)と大向一行教授は、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いた数値シミュレーションにより、銀河中心に存在する巨大ブラックホールの起源に対する新説を提唱しました。従来の説では、水素とヘリウムからなる始原ガス(注2)からのブラックホールの種の形成が考えられていました。この説では、宇宙初期に存在する一部の巨大ブラックホールの起源は説明できるものの、銀河中心に位置するような巨大ブラックホールの数を説明することができませんでした。しかし、今回のシミュレーションは、重元素を少量含んだガスからの星形成(注3)時でも、小さい星が大きい星へ合体することで、巨大ブラックホールの種となる巨大星の形成も可能であることを示しました。これにより巨大ブラックホールの起源を統一的に説明できる可能性が開けました。本成果は、2020年5月出版の『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に掲載されました。

図1:ブラックホール形成時における宇宙における物質分布(上図)とブラックホールを生み出すガス雲の密度分布(下図)のシミュレーション結果。下図において中心付近にある黒い点は巨大星を表しており、やがてブラックホールに進化すると考えられる。白い点は小さい星を表しており、ガス雲の激しい分裂により形成された。小さい星の多くは中心の巨大星と合体し、それによって巨大星の質量は効率よく成長できる。(クレジット:Sunmyon Chon)

【用語解説】

(注1)巨大ブラックホール
宇宙に数多く存在するブラックホールのうち、太陽の100万から100億倍の質量を持つ重いブラックホールの総称。我々の銀河系を含む、ほぼ全ての銀河の中心に存在すると考えられている。近年、地球規模の電波干渉計であるEvent Horizon Telescope (EHT)による直接撮像が成功したことで、その存在が注目を集めている。

(注2)始原ガス
宇宙の始まりであるビッグバン直後に存在する元素からなる物質の総称。水素・ヘリウムとわずかな量のリチウムから構成される。我々の身近に存在する酸素や炭素などをはじめとする多様な元素は主に星の内部で生成され、重い星が死後起こす超新星爆発などによって宇宙空間に撒き散らされる。

(注3)星形成
ガスの集まりであるガス雲が自らの重力により収縮し、中心に「星」を形成する過程。誕生直後の星は原始星と呼ばれ、質量は太陽の100分の1程度と非常に小さい。この原始星が周囲のガスを集めることで、太陽をはじめとする恒星に成長する。この一連の星を作る過程のことを星形成と呼ぶ。原始星が周囲のガスをどれだけ集められるかが、巨大星を作る鍵である。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
研究員 鄭 昇明(ちょん すんみょん)
E-mail:sunmyon.chon*astr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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