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自分の身体ではなく、自分の行為への気づきが、運動能力を向上させる 〜運動主体感の人工的操作がリハビリテーション成功の鍵〜

【発表のポイント】

  • 見ている身体を自分の身体であると気づくとき、人間は以下の二つを経験し、これら二つの経験が運動能力の向上に関わっていると仮定されていました。
    1.見ている身体を自分の身体の一部だと感じる(身体所有感)注1
    2.自分が身体を動かしていると感じる(運動主体感)注2
  • 自己身体の気づきにおける、これら二つの経験のうち運動主体感だけが、運動能力の向上に関わっていることが本研究で判明しました(図1)。
  • 本成果は、運動機能障害のリハビリテーションや身体能力開発において、運動主体感の人工的操作が有効である可能性を示唆しています。

【概要】

運動能力の改善を目的とした「自己身体の気づき」(自分の身体感覚)の人工的操作に関する研究が世界中で活発に行われています。これまで「身体所有感」と「運動主体感」の両方が運動能力の向上に関わっているとされていましたが、自分の手などの動いている身体部位を見ると「身体所有感」と「運動主体感」を同時に感じてしまうことから、二つの気づきを実験的に分離することは極めて難しく、両方の気づきが運動能力に影響を与えることを実証した研究はありませんでした。

東北大学大学院情報科学研究科の松宮一道教授は、バーチャルリアリティ技術を用いて、見ている手に対して「身体所有感」はあるが「運動主体感」がない状態やその逆の状態を人工的に創り出す手法を開発し、「運動主体感」だけが運動能力の向上に関わることを世界で初めて明らかにしました。本発見は、運動主体感の人工的操作が運動能力の改善に有効であることを示しています。この成果は、運動機能障害のリハビリテーションや身体能力開発などにおいて、身体感覚の操作手法における新たな道を開くことが期待されます。

図1.二つの「自己身体の気づき」と本研究成果.
手などの身体部位を自分の身体の一部であると認識したり(身体所有感)、その身体部位を動かしているのは自分であると認識したり(運動主体感)することができる。通常、これらの二つの感覚は同時に感じられ、心の中でうまく区別できないため、どちらの感覚が運動能力に影響を与えるのかは不明だった。本研究は運動主体感だけが運動能力の向上に関わることを発見した。

【用語解説】

注1:身体所有感
手などの自分の身体部位を見たときに、その身体部位が自分の身体の一部に属していると感じる経験。身体所有感は、身体部位が動いていても静止していても生じる。脳の頭頂葉などを損傷した患者の中には、自分の手を他人の手と感じる症例報告がある。

注2:運動主体感
手や口などの動いている身体部位に対して、その身体部位を制御しているのは自分であると感じる経験。運動主体感は、身体所有感と違い、能動的に身体を動かしたときのみ生じる。運動麻痺を有する患者の中には、自身の麻痺を認めない病態失認を伴う患者が存在する。そのような患者は、麻痺肢を自分の意思で動かせないにも関わらず、麻痺肢に対して運動主体感の錯覚を経験するという症例報告がある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学 大学院情報科学研究科
教授 松宮一道
Tel: 022-795-4564
E-mail: matsumiya*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道担当>
東北大学 大学院情報科学研究科 広報室
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3-09
Tel: 022-795-4529
Fax: 022-795-5815
E-mail: koho*is.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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