2021年 | プレスリリース・研究成果
水に強い有機半導体の結晶格子を制御する~結晶格子の硬さ・柔らかさの自在制御~
【発表のポイント】
- 食塩型の分子間相互作用(注1)を用いた結晶格子の硬さ・柔らかさ(注2)の化学的な自在制御により、水に対する優れた耐性を示すn型有機半導体材料(注3)の作製に成功した。
- 従来、水に対して不安定とされているn型有機半導体が、結晶格子の硬さ・柔らかさを反映した優れた電子輸送特性を示すことを見出した。
- アルカリ金属イオンのサイズをLi, Na, K, Rb, Csと段階的に変化させることで、結晶格子の熱運動の大きさを制御することに成功した。
【概要】
有機材料の特徴は、多様な分子間相互作用によって結晶格子が支配される点です。東北大学多元物質科学研究所の大学院生 阿部春花氏、芥川智行教授は、京都大学の関修平教授らとの共同研究により、n型有機半導体特性を示すアニオン性のナフタレンジイミド誘導体を用いて、アルカリ金属イオンであるLi, Na, K, Rb, Csを系統的に組み合わせることで、n型有機半導体材料の結晶格子の硬さ・柔らかさを化学的に自在制御することに成功しました。本材料は、アルカリ金属イオンのサイズにより、結晶格子の熱運動状態が変化し、水の存在下で高い電子移動度と可逆的な水の出し入れが可能な有機材料です。このような結晶格子の硬さ・柔らかさの制御は、有機エレクトロニクスの性能制御のための新たな可能性を提案する研究結果です。
本研究の成果は米国現地時間の2020年12月30日、学術誌Journal of the American Chemical Societyにてオンライン掲載され、掲載誌のSupplementary Cover Artに選ばれました。
本研究は、科研費基盤研究(A)JP19H00886、学術変革領域(A)JP20H05865およびJST CREST研究 JPMJCR18I4による成果です。
図1 (M+)2(PCNDI2−)•(H2O)nの分子構造(左)と水の吸脱着を可能とする結晶構造(右)。対カチオンであるアルカリ金属イオンをLi+ → Na+ → K+ → Rb+ → Cs+と段階的に大きくすることで、静電相互作用により支配される結晶格子の硬さ・柔らかさを化学的に自在制御可能である。PCNDI2−が形成する二次元的な電子伝導層間に可逆な水の吸脱着を可能とする層が共存している。
【用語解説】
注1.食塩型の分子間相互作用
プラスとマイナスの電荷間に働く静電相互作用で、100 kJ mol-1に至る大きなエネルギーを有するクーロン相互作用です。弱い分子間相互作用から構成される有機結晶が低い温度で融解するのに対して、食塩の融点は800度にも及びます。
注2.結晶格子の硬さ・柔らかさ
固体中で規則的に配列した分子が形成する結晶格子は、絶えず熱による運動(揺らぎ)を生じています。外部から与えられる熱エネルギーが結晶格子のエネルギーより大きくなると、結晶は融解します。同じ量の熱エネルギーを外部から与えた時、柔らかな結晶格子では熱揺らぎが大きくなり、硬い結晶格子では熱揺らぎが小さくなります。
注3.n型有機半導体材料
固体中の電気伝導性の発現に必要な電荷が電子である有機材料です。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
担当:芥川 智行(あくたがわ ともゆき)
電話:022-217-5653
E-mail:akutagawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)