2021年 | プレスリリース・研究成果
反強磁性体で世界最大の自発磁気効果をもつ低消費電力磁気メモリ材料:反強磁性体におけるワイル粒子の発見
【発表のポイント】
- 世界最大の横磁気効果を持つ反強磁性体金属を発見しました。
- ワイル粒子と呼ばれる固体中の相対論的粒子が巨大な横磁気効果の起源であることを示しました。
- 漏れ磁場が少なく数百ガウスで磁化反転可能な反強磁性材料のため、高集積可能な新しい不揮発性メモリの材料として期待されます。
【概要】
スマートフォンやタブレットなどの内蔵ストレージに採用されているメインメモリには、電源をオフにするとデータが失われる「揮発性メモリ」が使われており、データ保持に過度な電力消費をしてしまいます。消費電力削減のために、強磁性体の磁化方向を利用して電力供給せずともデータ保持が可能な不揮発性記憶素子を使用したメモリ開発が進んでいますが、今後急速に増える情報量とともに集積化が進めば、記憶素子間の漏れ磁場の影響によりメモリ容量の限界が来ると考えられています。
今回、東京大学大学院理学系研究科の中辻 知教授、見波 将特任研究員と東京大学物性研究所の冨田 崇弘特任助教、Taishi Chen特任研究員、Mingxuan Fu特任研究員らの研究グループは、東北大学大学院理学研究科の是常 隆准教授、理化学研究所の北谷 基治特別研究員、金沢大学ナノマテリアル研究所の石井 史之准教授、東京大学大学院工学系研究科の有田 亮太郎教授らの研究グループと協力して、マンガン化合物Mn3Geの反強磁性体(図1a)において、これまでにないゼロ磁場での巨大な異常ホール効果を見いだし、同時にネルンスト効果と呼ばれる磁気熱量効果が反強磁性体の中で最大値を示すことを発見しました。従来の強磁性体材料では磁化に比例した横磁気効果、すなわち異常ホール効果や異常ネルンスト効果が現れるのが一般的でしたが、従来の概念を打ち破り磁化がほぼない反強磁性体で従来の強磁性体金属と同程度のサイズの効果がゼロ磁場室温で見いだされました。従来の強磁性体の場合、自発磁化による漏れ磁場の影響がありましたが、反強磁性体の場合はスピンを反対向きに揃っているため全体のスピンが作り出す漏れ磁場はほとんどありません。特に、異常ホール効果は電流と垂直に得られる起電力応答のため素子構造が単純であること、マンガン化合物が二元系の廉価で毒性のない元素で構成されていることから不揮発性メモリ素子への展開が可能です。また反強磁性体材料は、理論的に強磁性体より高速動作が可能であることから、今後、消費電力を抑えたビッグデータの記録および高速処理をともに可能とする反強磁性不揮発性メモリ材料として期待できます。
本研究成果はNature Communicationsオンライン版に掲載されました。
図1:反強磁性体Mn3Geのワイル粒子生成の概念図。(a) 反強磁性体Mn3Geの実空間での結晶構造と磁場中での磁気構造。z = 0面とz = 1/2面の二層を持つカゴメ格子構造と呼ばれる三角形ベースの結晶構造。磁場B ||[2110]にかけた場合の逆スピン三角構造と呼ばれるMn(マンガン)スピンの磁気構造の様子。反強磁性体における反強磁性磁気共鳴周波数は交換結合に起因する交換磁場に比例するため、強磁性体に比べて圧倒的に高くなり、テラヘルツ帯の高速動作が可能。(b) 運動量空間でのディラックコーンが対称点にあった際、(c) 磁性体の時間反転の破れによりノーダルラインが現れます。さらに強いスピン軌道相互作用が現れることで、(d) 2点を残したギャップが開くことで運動量空間内に正負のワイル点を持つワイル金属状態が生成されます。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科 物理学専攻
准教授 是常 隆(これつね たかし)
E-mail:koretsune*cmpt.phys.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科・理学部
広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)