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【TOHOKU University Researcher in Focus】Vol.015 リサイクルの新たなステージへ ―持続可能な社会のためにできること―

本学の注目すべき研究者のこれまでの研究活動や最新の情報を紹介します。

大学院環境科学研究科 熊谷 将吾 助教

大学院環境科学研究科 熊谷 将吾(くまがい しょうご)助教

生活に欠かせないプラスチック製品。しかしその一方で、日本では、2018年には891万トンのプラスチックごみ(廃プラスチック)が排出されました(プラスチック循環利用協会によるデータ)。廃プラスチックの有効利用率(リサイクル率)は84%だったといいます。その内訳は、廃プラスチックをプラスチックのまま原料にして新しい製品をつくる「マテリアル(材料)リサイクル」が23%、化学的な処理を施して利用する「ケミカルリサイクル」が4%、燃やした際に発生する熱を回収する「サーマルリサイクル(エネルギー回収)」が56%となっています。熊谷さんの研究分野は、従来の方法ではリサイクルが難しいプラスチックのケミカルリサイクル法の開発です。

多様なプラスチックの処理技術

一言でプラスチックといっても、じつに多種多様です。食器や食品トレー、ストロー、ペットボトルは代表的なものですが、そのほかにも発泡スチロール、ボールペンや定規、消しゴムなどの文房具、ゴミ袋、CD、携帯電話、コンタクトレンズ、ホース、水道管、注射器、電線ケーブル、タイヤ、プリント基板などなど、身近なものから予想外のものまでたくさんあるのです。

そのうち、ペットボトルはリサイクルの優等生なのだそうです。それは、混ざり物がほとんどないポリエチレンテレフタレート製なので、化学的ないし物理的な方法によって原料に戻しやすいからです。ペットボトルは、ペットボトルへの水平リサイクルが実現し、またフリースなどの衣料や卵パックなど多種多様の製品に再生されています。矢印が三角形に組み合わさったマークにPETと書き込まれた特別な識別表示マークがペットボトルに付けられて特別扱いされているのは優等生の証しでもあるのです。

混ざり物の少ない純粋できれいなプラスチックならば、比較的容易に材料リサイクルに回すことができます。しかし大多数のプラスチックには、目的の機能を得るためにさまざまな顔料や添加剤が入っています。日本で売られているだけでも150種類あまりのプラスチックが存在しており、添加剤だけでも250種類が知られています。それらが混ぜ合わされていることが、多種多様な製品が存在する理由でもあり、リサイクルを難しくさせている要因の1つだそうです。

熊谷さんは、学部4年の進級時に、30年以上前からプラスチックのケミカルリサイクルの研究を始めていた吉岡敏明先生の研究室に入りました。それ以降、熊谷さんは、難リサイクル性のプラスチックを主なターゲットとして、プラスチック材料であるポリマー(高分子)を熱分解によって低分子に分解し、それをオイルやガスとして集め、各種化学原料や燃料に戻す技術開発に取り組んでいます。プラスチック製品は多岐に渡りますから、それらの性状に応じた熱分解のしかたや前処理が求められるのに、現実は、どんなプラスチックや添加剤が使われているかは製品ごとにまちまちで、企業秘密と言ってもいいくらいです。熊谷さんは、プラスチックの種類や含まれている添加剤を特定する分析技術の開発も企業と共同研究しています。プラスチックや添加剤の熱分解によって発生するガスを直接、ガスクロマトグラフという測定装置にかけて成分を検出するシステムにより、添加剤の配合処方からプラスチックの分解メカニズムまで網羅的に解明しようというのです。店ごとに違うカレーの香辛料の配合を見分けるようなもので、挑戦しがいがあると、熊谷さんは闘志を燃やしています。

プラスチックは単体だけでなく様々な材料と組み合わせて製品化されています。たとえば家電製品や自動車の銅線ケーブルの被覆材はプラスチックです。銅とプラスチックを再利用するためにも、銅線とプラスチックをきれいに分ける必要があります。従来の方法は、そのまま粉砕して比重で分けるというものでした。熊谷さんは、適切な溶媒で被覆材を柔らかく膨らませたうえで、ボールミルで剥がす技術を開発し、これまではリサイクルが困難だった直径数mmの細線でさえも高精度に剥離することに成功しています。現在、実用化に向けた技術のブラッシュアップに励んでいます。

資源の有効活用とSDGs

プラスチックなどの工業製品のリサイクル技術の開発だけでなく、エクアドルとの共同研究で、農業において生じる未利用バイオマスを有効利用する研究もしています。カカオポッド、バナナのラキス(茎)、コーヒー果肉などを、熱処理により化学原料、燃料、活性炭に転換して有効利用を図っていますが、本プロジェクトの肝は、現地の技術成熟度に応じたプロセスを現地の人たちと一緒に考えることです。人里離れたとある農園では、片隅に積み上げられた未利用バイオマスが腐敗し、様々な衛生問題(地下水汚染や疫病等)の引き金となっているそうです。

この研究のおもしろいところは、食料として利用されない「じゃまもの」を活用することで、資源の再利用と環境保全という一挙両得を目指すところだそうです。そこでは、技術開発だけでなく、地域における資源活用を総合的に見通したプロジェクト設計が求められます。いうなれば、スペシャリストとジェネラリストの側面を併せ持つ必要があると、熊谷さんは語ります。

今年の3月には、OECDが主催した「持続可能なプラスチックデザイン基準」に関する国際会議に日本代表の一人として参加しました。プラスチック原料のバイオマス化、易リサイクル設計、生態系や健康への被害が懸念される添加剤の代替など、持続可能なプラスチック製品デザインとは何なのか、そのガイドライン作成に向けた検討が始まっているのです。

先進国は自国のリサイクルを途上国に頼ってきた歴史があります。しかしこれからはリサイクル技術の開発に力を入れ、途上国への技術移転に力を入れる責務があります。廃棄物処理やリサイクル分野においては、EU全体がシステマティックに連携し、制度設計から技術開発に至るまで積極的に取り組んでいます。日本も、地域特性に応じた独自の処理方法を検討すべきです。都市部、山間部、製油所の近くなど、地域によって利用可能な資源および廃棄物性状は大きく異なります。この4月からは、JSTの創発的研究支援事業として、有機炭素資源を一気に分解処理する研究を開始しました。たとえば、未利用の間伐材、廃プラスチック、化石資源をいっしょに処理する共熱分解技術の開発を検討し、有機炭素資源のベストミックスによる効果的な化学原料・燃料回収にチャレンジします。

生活をカラフルに便利にするプラスチックですが、プラスチックとの共生のしかたを真剣に考える時代になっています。マイクロプラスチックによる海洋汚染が深刻化していますが、その根本的な解決には、プラスチック廃棄物の効果的なリサイクルが必要不可欠です。しかしその前に、不要なプラスチック製品はなるべく作らないにこしたことはありません。それは、プラスチックの原材料である化石資源の節約にもつながります。リサイクルの難しいプラスチックのリサイクル技術を研究している熊谷さんにしてみれば、そういう技術が不要な社会の実現が理想という、板挟み状態と言えなくもありません。しかし、総合的な観点からSDGsを目指すという目標にぶれはありません。併せて、プラスチックごみの処理問題に関するアウトリーチ活動も積極的に行っていくつもりでいるそうです。

文責:広報室 特任教授 渡辺政隆

多種多様な廃プラスチック

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東北大学総務企画部広報室
E-mail:koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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