2021年 | プレスリリース・研究成果
尿路結石中のタンパク質局在状態を世界で初めて可視化 ―尿路結石形成のメカニズムを明らかにする新技術への第一歩―
【本学研究者情報】
〇理学研究科地学専攻 准教授 古川善博
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【発表のポイント】
- 尿路結石症※1 は今や10 人に1 人が発症する病気にもかかわらず、その発生メカニズムも解明されて おらず、有効な予防法も多量の飲水しかない。同じ人に何回も再発したり、家族内で発生することから、「遺伝」が関係する可能性があると言われているが、堅い結石の中の情報を読み取ることはこれ までの技術では不可能であった。
- 尿路結石の形成に深く関わる3 種類のタンパク質を例として、結石内部における各タンパク質の局在 状態をマイクロメートルスケールで可視化する技術を世界で初めて開発した。
- 尿路結石に含まれる結晶やタンパク質等の有機分子の分布状況から、結石の形成過程が詳しく読み解 けることが期待されていた。しかし、サンプル成形の難しさなどもあり、結石内部に局在する各種タンパク質の分布の違いは可視化できなかった。著者らは、尿路結石の成形技術として、鉱物学・岩石学で一般的に用いられる薄片※2 技術を導入した。これにより結石が含むタンパク質成分や結晶の成分、 組織を極限まで維持したサンプルの成形が可能となり、さらにサンプルをごく微少量溶かすことで、 3 種類のタンパク質について蛍光免疫染色※3 に成功、それぞれの局在状態の可視化に成功した。
- 今後、尿路結石中に含まれているタンパク質の分布状況と、その周辺の結晶の状態(結晶相、大きさ、形、組織など)の関係を詳しく調べることで、尿路結石を大きく固くしてしまうタンパク質の特定が 期待できる。将来的には、手術治療しか手立てが無かった尿路結石に対して、これまで不可能と言われ続けてきた『結石溶解療法』に繋がる発見も期待され、「すべての人に健康と福祉を」のSDGs で高齢化社会に大きく貢献する。
【概要】
大阪大学高等共創研究院(大学院工学研究科兼任、京都府立大学特任准教授兼任)の丸山美帆子准教授、名古屋市立大学大学院医学研究科 大学院生の田中勇太朗臨床研究医(博士課程 腎・泌尿器科学分野)、名古屋市立大学大学院医学研究科の岡田淳志准教授(腎・泌尿器科学分野)らの研究グループは、尿路結石の形成に深く関わる3 種類のタンパク質(オステオポンチン※4、プロトロンビンフラグメント1※5、カリグラニュリンA※6)を例として、結石内部における各タンパク質の局在状態をマイクロメートルスケールで可視化する技術を世界で初めて開発しました。
尿路結石は90%以上を無機成分、残りの0.1~10%程度を100 種類以上のタンパク質等の有機成分が構成しています。結石に含まれる結晶の状態(結晶の種類、結晶構造、粒径分布など)は患者の尿環境を直接的に反映しており、さらにタンパク質は結晶の成長に大きく影響します。これまでにも、何らかのタンパク質が結石形成を加速する可能性が示唆されてきましたが、多種類のタンパク質がそれぞれどのように結石内に局在をするのかを調べる方法が無く、結石形成過程における各タンパク質の働きは十分に明らかではありませんでした。
今回、本研究グループは、尿路結石内の様々なタンパク質の局在状態を可視化するために、尿路結石の成形技術として、鉱物学・岩石学で一般的に用いられる薄片技術を導入しました。薄片技術の最適化により、尿路結石が含むタンパク質成分や結晶の成分、組織を極限まで維持したサンプルの成形が可能となりました。さらに、尿路結石薄片に含まれるタンパク質に対して、がん検査などで用いる手法と同様に特定のタンパク質に対する抗体を反応させることで、異なる3種類のタンパク質を同時に蛍光免疫染色することに成功し、それぞれの局在状態の可視化が実現しました。今回観察対象としたタンパク質は、尿路結石の形成に深く関わる3種類のカルシウム結合タンパク質(オステオポンチン、プロトロンビンフラグメント1、カリグラニュリンA)。3つのタンパク質の局在の違いと、尿路結石を構成する結晶の種類や組織との関係性を詳しく調べることで、各タンパク質が尿路結石形成に与えた影響を詳しく議論することができるようになりました。このタンパク質局在の可視化法は、多種多様なタンパク質の可視化に適用可能です。そして、これまで明らかでなかった尿路結石の形成メカニズムが詳しく解明されることが期待されます。将来的にはそのメカニズムに基づいた新しい予防法やこれまで不可能と考えられてきた結石溶解療法の開発治療法の開発が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、8月26日(木)18時(日本時間)に公開されました。
図1 尿路結石内に分布する3種類のタンパク質局在の様子。(a)3つのタンパク質の像を重ね合わせたもの. (b)オステオポンチンの分布. (c)プロトロンビンフラグメント1の分布.(d)カリグラニュリンAの分布.
【用語解説】
※1 尿路結石症
腎臓から尿道までの尿路に結石が生じる疾患。生涯罹患率10%以上、再発率が50%以上であり、年々罹患率も上昇している。
※2 薄片
岩石のような固いものをスライドグラスに張り付けて、研磨剤を使って20~30μmの薄さまで磨り減らし、顕微鏡で観察できるようにしたものです。薄片は、透過光や偏光による構成鉱物の観察だけでなく、化学分析をすることも可能。
※3 蛍光免疫染色
解析対象の標的タンパク質が局在する様子を観察できる手法。一般的には細胞や組織中の標的タンパク質の検出に用いられるが、本研究では尿路結石という"硬い組織"に対して適用し、タンパク質の可視化に成功した。
※4 オステオポンチン
骨、腎、血管壁、血清、母乳など様々な組織に存在する結合性の酸性リン酸糖タンパク質。尿路結石形成に深く関わるタンパク質としても注目されている。
※5 プロトロンビンフラグメント1
尿中に存在する代表的な糖タンパク質の一つであり、Caと高い親和性をもつカルシウム結合タンパク質。血液凝固系にも関与することが知られている。
※6 カリグラニュリンA
尿中に存在するカルシウム結合タンパク質。好中球の遊走などの炎症や免疫応答の調整に重要な役割をもつ炎症性タンパクである。
問い合わせ先
(研究に関すること)
理学研究科地学専攻
准教授 古川 善博(ふるかわ よしひろ)
電話:022-795-3453
E-mail: furukawa*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
理学研究科 広報・アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)