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悪性中皮腫に対する新しいα線標的アイソトープ治療薬候補を開発 ―既存の治療法では効果がない悪性中皮腫に新たな治療法として期待―

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科抗体創薬研究分野 教授 加藤幸成
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 中皮腫細胞に結合してα線を放出する標的アイソトープ治療薬候補アクチニウム225(225Ac)標識抗ポドプラニン抗体を、中皮腫モデルマウスに投与して、がんサイズの縮小効果と生存期間延長を確認しました。
  • 既存の治療法では効果がない悪性中皮腫に対する新たな治療法となることが期待されます。

【概要】

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)量子生命・医学部門量子医科学研究所分子イメージング診断治療研究部の須藤仁美主任研究員、辻厚至グループリーダー、東達也部長は、国立大学法人東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授、金子美華准教授と共同で、悪性中皮腫(がん)に対するα線放出核種を用いた治療薬候補の開発に成功し、動物実験によりその抗がん効果を明らかにしました。

中皮腫は、胸膜、腹膜などにある中皮から発生する悪性腫瘍で、80-85%が胸膜から発生します。中皮腫の原因のほとんどは、アスベストばく露です。2005年のクボタショックを契機に大きな社会問題となりました。日本国内における悪性中皮腫による死亡者数は増加の一途をたどっています。アスベストの輸入及び使用量は1970〜1980年代がピークで、2004年に全アスベストに対して原則使用禁止となりましたが、アスベストばく露から発症までの潜伏期間が25〜50年とされていることから、悪性中皮腫の発生ピークは2030年頃、罹患者数は年間3,000人に及ぶと予測されています。診断される患者の7割以上が進行がんであり、有効な治療法がなく予後が悪いため、新たな治療法が望まれています。

量研では、放射線の飛ぶ距離が細胞数個分と短く、当たった細胞を殺傷する能力が高いα線を放出する核種225Acを加速器で効率よく製造することに成功しています。225Acは、近年、前立腺がん特異的膜抗原(PSMA)を標的とした前立腺がんで注目されている標的アイソトープ治療用の放射性同位体です。

この225Acを中皮腫細胞だけに届けることが出来れば、飛距離の短いα線により、周囲の正常細胞を傷つけることなく、効率よくがん細胞を殺傷することが可能です。そこで、本研究チームは、中皮腫細胞の細胞表面に多く存在しているポドプラニンというタンパク質に結合する抗体NZ-16(以下、「NZ-16」という。」)を225Acで標識し、α線標的アイソトープ治療薬候補として225Ac標識NZ-16を開発しました。ポドプラニンは中皮腫の中でも特に悪性度の高い肉腫型でも高発現しているタンパク質で治療標的として有望です。

225Ac標識NZ-16を中皮腫のモデルマウスに1回投与したところ、腫瘍サイズを縮小させ、腫瘍をほぼ消失させる効果があることを確認しました。また、生存期間を延長させることも確認しました。一方で、副作用の指標となる体重減少や病理所見は認められませんでした。更に、α線と同様にがん細胞殺傷能力を有するβ線を放出する放射性同位体イットリウム90(90Y)を付加した90Y標識NZ-16と225Ac標識NZ-16の抗腫瘍効果を比べたところ、225Ac標識NZ-16は90Y標識NZ-16よりも高い腫瘍縮小効果があることを確認しました。これらの研究成果から、悪性中皮腫に対して、225Ac標識NZ-16によるα線標的アイソトープが副作用の少ない効果的な治療法となることが期待されます。現在、臨床応用に向けて関係機関と協力して準備を進めており、3年後のFirst-in-human試験の実施を目指しています。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「橋渡し研究プログラム」シーズB、および橋渡し研究支援拠点(東北大学)の支援により実施した成果を一部活用したもので、「Cells」(インパクトファクター6.6)2021年9月23日にオンライン掲載されました。

図1. ポドプラニン及び放射性標識抗体
ポドプラニンは、細胞膜表面に存在するタンパク質です。中皮腫、脳腫瘍などで高発現しており、その悪性度に関与しています。本研究では抗ポドプラニン抗体NZ-16を、α線放出核種アクチニウム225(225Ac)やβ線放出核種イットリウム90(90Y)で放射性標識し、中皮腫モデルマウスで治療効果を評価しました。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究内容について)
東北大学大学院医学系研究科
分子薬理学分野・抗体創薬研究分野
教授 加藤 幸成
E-mail:yukinarikato*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道対応)
東北大学大学院医学系研究科・医学部 広報室 
E-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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