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温度差のある二つの物体の近接で生じる横滑り力の発生原理を理論的に解明 ─熱を容易に運動に変える新たな工学技術への発展に期待─

【発表のポイント】

  • ノコギリ歯状の表面微細構造を持つ高温基板に低温物体に近づけるだけで両者をスライドさせるクヌッセン力*1を分子シミュレーションで再現
  • 熱流体力学では説明できなかったクヌッセン力の発生メカニズムを、気体分子運動論により世界で初めて理論的に解明
  • エンジンのような複雑な機構なしに、物体を近づけるだけで熱から仕事を取り出せる新たな工学技術への応用に期待

【概要】

ノコギリ歯状の表面構造を持つ高温基板に低温物体を1ミクロン以下の距離まで近づけると、物体と基板をスライドさせるクヌッセン力が働くことが従来研究で指摘されていた。この力は熱流体力学で説明できず、発生メカニズムも性質も未解明であった。

中部大学工学部の米村 茂教授と東北大学流体科学研究所の博士後期課程大学院生のOtic Clint John Cortes氏は、分子シミュレーションによってこの力を再現することに成功し、両物体間の距離が、気体分子の平均自由行程*2の百分の一から十倍までの間の大きさである場合にのみ、この力が顕著に現れることを明らかにした。さらに分子の入・反射によって物体表面に伝えられる運動量に着目して、この力の発生メカニズムを理論的に解明した。

この力を利用すれば、エンジンなどの内燃機関のような複雑な機構なしに、表面の微細加工によって、熱から仕事を取り出すことが可能になり、非常に画期的である。この研究成果は、米国物理学協会が発行する流体分野で最も権威のある学術雑誌Physics of Fluidsに7月19日に掲載された。また同協会が高評価した論文を一般向けに紹介するサイトAmerican Institute of Physics Showcaseでも取り上げられた。

図1:表面微細構造を持つ高温基板と低温物体に働く接線方向クヌッセン力

【用語解説】

*1 クヌッセン力
物体まわりの気体に、気体分子の平均自由行程*2程度の空間スケールで温度分布がある場合には、気体は局所的な熱平衡状態にはなく、物体表面に入射し散乱する気体分子によって物体表面にもたらされる運動量にアンバランスが生じる。このアンバランスによって物体に力が働く。温度変化の空間スケールを代表長さLと考えると、この流れ場において平均自由行程λと代表長さLの比で定義されるクヌッセン数*3Knが1程度の大きさになるため、この力をクヌッセン力と呼ぶ。

*2 平均自由行程  
空気中の気体分子は他の分子と衝突しながら絶えず動き回っている。他の分子と衝突せずに真っ直ぐ進める距離を自由行程といい、その平均値を平均自由行程という。

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問い合わせ先

(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所 
広報戦略室
電話 022-217-5873
E-mail ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp
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