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自己免疫疾患に関わるシグナル複合体の立体構造を解明 ~ 脂質受容体に対する創薬開発に貢献 ~

【本学研究者情報】

〇薬学研究科分子細胞生化学分野 教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • リゾホスファチジルセリン(リゾPS)(注1)受容体GPR174とシグナル伝達因子Gsが会合したシグナル伝達複合体(注2)の構造基盤を明らかにしました。
  • リゾPSはGPR174の側面に結合することで、受容体の構造変化を引き起こし、Gsシグナルをオンにすることを解明しました。
  • 本研究は、バセドウ病(注3)をはじめとする自己免疫疾患等へのリゾPS受容体を標的とした創薬開発に貢献すると期待されます。

【概要】

脂質分子には細胞膜を形作る役割のほかに、生理活性をもつシグナル分子としての一面もあります。リゾリン脂質と呼ばれる脂質分子は、細胞間のシグナル伝達因子として生体内で様々な生理機能を司ることが知られています。このうち、リゾPSと呼ばれる脂質分子については免疫系細胞に対する様々な作用が知られており、3種のリゾPS特異的受容体を介して機能します。リゾPS受容体の1種であるGPR174は、その遺伝子変異が自己免疫疾患であるバセドウ病に関連していることが知られています。

東北大学大学院薬学研究科の井上飛鳥教授・生田達也助教らのグループは、中国ハルビン工業大学のYuanzheng He教授らのグループとの共同研究により、リゾPSが結合して活性型構造へと変化したGPR174とGsタンパク質からなるシグナル伝達複合体の立体構造を解明し、機能解析を行うことで、リゾPSの認識基盤を解明しました。今回の研究成果は、GPR174を標的とする自己免疫疾患治療薬の開発に貢献するとともに、他の脂質受容体に対する薬剤の開発にも役立つことが期待されます。

本研究の成果は、日本時間2023年2月23日に科学雑誌Nature Communications誌に掲載されました。

図1 リゾホスファチジルセリン(リゾPS)の化学構造
グリセロール骨格にアシル基(青)とリン酸基(赤)、セリン(緑)が結合した構造を有する。GPR174に結合する際は、セリンとリン酸基が細胞外側を向くことがわかった。

【用語解説】

(注1)リゾホスファチジルセリン(リゾPS)
生理活性脂質の1種。化学構造は図1を参照。両親媒性を示し、脂質膜中にも水溶液中にも分布する。「リゾ」は細胞膜を溶解する物性から名付けられているが、受容体に対する作用は膜溶解活性よりもはるかに低い濃度で発揮する。

(注2)シグナル伝達複合体
GPR174などのGPCRは細胞外の化学刺激(リガンド結合)によって立体構造を変化させ、細胞内に存在するGタンパク質に作用してシグナルを伝達する。この際にGPCRGタンパク質が一過的に形成する複合体をシグナル伝達複合体と呼ぶ。

(注3)バセドウ病
甲状腺を刺激する自己抗体が産生されてしまい、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで生じる自己免疫疾患。心拍数の増加などの症状を引き起こし、甲状腺クリーゼと呼ばれる生命に危険な状態になることもある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 井上 飛鳥(いのうえ あすか)
電話:022-795-6861
E-mail:iaska*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)


(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係
電話: 022-795-6801
E-mail:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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