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遺伝子一つを再発現しただけで細胞死が起きた! - 転写因子BACH1の再発現によるフェロトーシスモデル細胞が完成 -

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科生物化学分野 教授 五十嵐和彦
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 転写因子注1BACH1注2を欠損した線維芽細胞注3で、BACH1を再発現させると、フェロトーシス注4という細胞死が起きることを発見しました。
  • このフェロトーシスが周囲の細胞へ伝播することを確認しました。
  • 将来、「この線維芽細胞を腫瘍内に入れて、そこでフェロトーシスを誘導することで、がんを縮小させる」細胞療法注5の実現が期待されます。

【概要】

フェロトーシスは、2012年に報告された鉄依存性の細胞死で、生体内でがん細胞の除去機構として働くことが分かっています。「がん組織でフェロトーシスを誘導することで、がんを縮小させる」という、新たながん治療戦略が期待されています。

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の西澤弘成(にしざわ ひろなり)博士、五十嵐和彦(いがらし かずひこ)教授らの研究グループは、加齢医学研究所の田中耕三(たなか こうぞう)教授らとの共同研究により、線維芽細胞で転写因子BACH1を再発現させると、薬剤を使わなくてもフェロトーシスが誘導できることを発見しました。これは過去に報告のない、新たなフェロトーシスモデル細胞です。さらにフェロトーシスが分泌物質を介して、このモデル細胞から周囲の細胞へ伝播、拡散していくことも突き止めました。

「腫瘍内にこのモデル細胞を埋め込むことで、がん組織にフェロトーシスを拡散させ、がんを縮小させる」という細胞療法に発展することが期待されます。

本研究の成果は、2023年4月24日に日本生化学会英文誌The Journal of Biochemistryにて発表されました。

図1. BACH1再発現によるフェロトーシスモデル
BACH1欠損線維芽細胞に、BACH1遺伝子を導入してBACH1を再発現させると、還元剤除去をきっかけに細胞が自動的にフェロトーシスを起こして、死滅する。

【用語解説】

注1. 転写因子:遺伝子の発現を調節するタンパク質。転写を活性化するものと抑制するものがあります。

注2. BACH1:ヘムや酸化ストレスに応答する転写抑制因子として、酸化ストレス下での細胞の反応に重要な役割を持つことが以前から知られています。2020年に、本研究チームは「BACH1がフェロトーシスの強力な促進因子である」ことを報告しました。

注3. 線維芽細胞:体内の各所に存在し、コラーゲンなどの間質成分を作り出すことで臓器のメンテナンスをしていると考えられています。後述の、マウス胎仔線維芽細胞を含め、線維芽細胞は増殖力が高く、細胞生物学、分子生物学実験でも頻繁に使用されます。

注4. フェロトーシス:2012年にDixonらによって新しく報告された細胞死機構。細胞内自由鉄(Fe2+)を触媒として細胞膜リン脂質の過酸化反応が連鎖し脂質ヒドロキシラジカルが蓄積することで細胞が死に至ると考えられています。自由鉄を除去する鉄キレート剤の投与によって抑制されます。

注5. 細胞療法:細胞を体内に入れることで特定の疾患を治療する方法。現在、実用化されているものとしては、移植片対宿主病に対して、間葉系の幹細胞を投与するテムセル® (JCRファーマ)などがあります。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
教授 五十嵐 和彦
学術研究員 西澤 弘成
TEL: 022-717-7596
E-mail: hnishizawa*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野
教授 田中 耕三
TEL: 022-717-8491
E-mail: kozo.tanaka.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-7891
E-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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