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がん細胞のフェロトーシス細胞死を誘導する薬剤の機序 DHODH阻害薬は別の標的に効いていた

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野 非常勤講師 三島英換
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • がん細胞のフェロトーシス(注1細胞死の感受性を高める効果が報告されていたDHODH(注2阻害薬の作用機序を解明しました。
  • DHODH阻害薬は、本来の薬剤の標的とは別のFSP1(注3というタンパク質を標的とすることで、がん細胞のフェロトーシス感受性を高めていることを明らかにしました。
  • 今後、臨床応用可能なFSP1阻害を標的とした抗がん薬の開発へと期待されます。

【概要】

フェロトーシス(ferroptosis)は脂質酸化依存性細胞死とも呼ばれる細胞死の一種で、近年、がん細胞に対する抗がん薬の感受性などに関わることが知られています。世界的に注目を浴びている生命事象であり、がん細胞のフェロトーシス感受性を高める薬剤は、新たながん治療薬となることが期待されています。

東北大学大学院医学研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野 三島英換(みしま えいかん)非常勤講師はドイツのヘルムホルツ研究センターミュンヘンとの国際共同研究により、ジヒドロオロチン酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)阻害薬が、なぜがん細胞のフェロトーシス感受性を高めるのか、その仕組みを明らかにしました。以前に別のグループの研究から、DHODHの働きを止める薬剤は、がん細胞のフェロトーシスの感受性を高めることが報告されていましたが(Mao et al, Nature 2021)、その機序には疑問が残っていました。今回の研究から、DHODH阻害剤によるフェロトーシス感受性増強作用は、薬剤の本来の標的であるDHODHそのものの阻害ではなく、別のフェロトーシスの制御タンパク質であるFSP1を阻害する作用を介したものであることを突き止めました。これらの発見は、がん細胞のフェロトーシスの制御機構におけるFSP1の重要性を確認するものであるとともに、臨床応用可能なFSP1阻害剤を有効ながん治療薬として開発する今後の研究につながることが期待されます。

本成果は、2023 年 7月5 日(英国標準時16時)に国際学術誌Nature誌のMatters Arising(注4)のセクションに掲載されました。

図:今回の論文の概説

【用語解説】

注1. フェロトーシス(Ferroptosis):2012年に新たに提唱された、アポトーシスとは異なる制御性の細胞死の型の一つ。脂質酸化細胞死とも呼ばれ、細胞膜成分のリン脂質の過酸化によって引き起こされる細胞死。治療抵抗性のがん細胞は、フェロトーシスに対する感受性が高くなっていることが報告されている。

注2. DHODH:ジヒドロオロチン酸デヒドロゲナーゼ。ミトコンドリア内膜に存在する酵素であり、DNA合成に必要な核酸の一種であるピリピミジンの合成に必要なタンパク質。

注3. FSP1:フェロトーシスサプレッサープロテイン1。細胞内ミトコンドリア外のCoQ10を還元する酵素。フェロトーシスを抑える働きがある酵素として本研究の責任著者でもあるConrad博士らによって2019年に報告された。

注4. Matters Arising:Nature誌に以前に掲載された原著論文に対して、極めて興味深くタイムリーな議論や説明について、正式な査読プロセスを経てオンライン掲載されるNature誌の出版形式。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
腎・膠原病・内分泌内科学分野 非常勤講師 
(兼)ヘルムホルツ研究センター 上級研究員[ドイツ]
三島英換(みしま えいかん)
E-mail: eikan*med.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 広報室
東北大学病院 広報室
TEL: 022-717-8032
FAX: 022-717-8187
E-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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