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トランジスタの新動作原理プラズモンでテラヘルツ波の検出感度を一桁以上高めることに成功 次世代6G&7G超高速無線通信の実現への道を拓く

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 准教授 佐藤昭
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • テラヘルツ波(注1の検出素子として定評のあるインジウムリン系高電子移動度トランジスタ(注2を用い、新しい動作原理を発見して適用することにより、従来の性能を一桁以上上回る大幅な検出感度向上に成功しました。
  • 同素子の無線通信への実用化において障壁となっていた、高速変調信号の波形歪みの問題を劇的に解消できる効果も得られることを示しました。
  • 6G、7G(注3超高速テラヘルツ無線通信の実現に貢献すると期待されます。

【概要】

現在主流になりつつある5G無線通信に続き、テラヘルツ波を使って通信速度をさらに1~2桁高める次世代の6G、7G無線通信の研究開発が始まっています。半導体電界効果トランジスタの電子チャネル内に励起される二次元電子群の荷電振動量子(二次元プラズモン)は、その流体的振る舞いに起因する強い非線形整流効果と、電子走行時間に律速されない高速応答性から、従来型電子デバイス/光デバイスでは困難な室温で動作する高速応答・高感度なテラヘルツ波検出素子を実現する動作原理として注目されています。

東北大学電気通信研究所の佐藤昭准教授ら、東北大学未来科学技術共同研究センターの末光哲也特任教授、理化学研究所光量子工学研究センターの南出泰亜チームリーダーらの研究グループは、インジウムリン系高電子移動度トランジスタ・ベースのテラヘルツ波検出素子において、プラズモン流体非線形整流効果(注4に加えてゲート・チャネル間ダイオード電流非線形性(注5を重畳した新たな検出原理"プラズモニック三次元整流効果"が発現することを発見し、それによって従来性能を一桁以上上回る電流検出感度(注6を得ることに成功しました。さらに、高速伝送系とのインピーダンス整合(注7が可能になり、高速変調信号の多重反射による波形歪みの問題を劇的に解消できる効果が得られることを実証しました。これらは次世代6G&7G超高速無線通信の実現への道を拓く画期的な成果です。

本成果は、工学分野の専門誌Nanophotonicsに2023年11月9日にオンライン掲載されました。

図1. (a)素子構造を示す鳥観図、(b)ドレイン端子から検出信号を読み出す方式の模式図、(c)ゲート端子から検出信号を読み出す方式の模式図。

【用語解説】

注1. テラヘルツ波:テラヘルツは1秒間に10の12乗回(1兆回)振動する周波数。「テラ」は基礎となる単位の10の12乗倍(1兆倍)の量を意味する(単位:THz)。テラヘルツ波は電波と光波の中間に位置する波長約10マイクロメートル(周波数30テラヘルツ)から10ミリメートル(周波数300ギガヘルツ)の電磁波。

注2. 高電子移動度トランジスタ(High-Electron-Mobility Transistor; HEMT):異なる化合物半導体層を積層させることで、チャネル層の電子移動度を高く保ったトランジスタ。インジウムリン系化合物半導体を用いたHEMTでは、キャリア供給層と呼ばれるインジウムアルミニウムヒ素層にドーピングを施し、チャネル層となるインジウムガリウムヒ素層に遠隔的に電子をドーピングすることで、チャネル層には不純物が入らないため、高い電子移動度を実現する。

注3. 6G、7G:現行の4G、5Gに続く次世代の無線通信規格であり、5Gの10~100倍以上の通信速度を目指し、研究開発が世界的に進んでいる。5Gで使用されているマイクロ波・ミリ波ではデータ容量に限界があるため、さらに高い周波数を持つテラヘルツ波の活用が望まれている。

注4. プラズモン流体非線形性:二次元電子群の荷電振動量子:二次元プラズモンは、流体的に振る舞うために電子密度や電子速度に対する非線形性を有しており、調和振動するプラズモンに対して直流電流の生成(整流効果)や高調波成分の生成が起こる。

注5. ダイオード電流非線形性:ダイオードにおける電圧-電流特性によって生じる非線形性。一般的なダイオードは、逆バイアス印加時は電流が流れず、順バイアス印加時はバイアスが増えるほど指数関数的に電流が増えるという、バイアスに対して非線形な電流特性を有しており、調和振動する交流電圧に対しても直流電流の生成(整流効果)や高調波成分の生成が起こる。

注6. 電流検出感度:テラヘルツ波の入射電力強度(単位:ワット(W))当たりに生成される光応答電流量(単位:アンペア(A))。

注7. インピーダンス整合:高周波信号の伝送において、信号の送信側、受信側、およびその間の伝送線路でインピーダンスを合わせること。高速伝送系では50 Ωに整合させることが標準である。インピーダンスを整合させていない場合、信号の多重反射が生じて受信側では波形が歪むため、特に超高速大容量データ通信においてはインピーダンスを整合させることが非常に重要である。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 佐藤昭、教授 尾辻泰一
TEL: 022-217-5821
Email: akira.satou.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所
総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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