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白亜紀中期の海洋生物の大量絶滅は7回の巨大火山噴火とアジア大陸東部の湿潤化が原因

【本学研究者情報】

総合学術博物館
教授 髙嶋 礼詩  (たかしま れいし)
総合学術博物館ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 白亜紀中期の9450万~9390万年前にかけての60万年間、地球は急激に温暖化するとともに、海洋の広い範囲で溶存酸素が低下して、海洋生物の大量絶滅が起こりました(海洋無酸素事変2(注1)。
  • 本研究では、北海道北西部苫前町において、海洋無酸素事変2の期間に堆積した世界で最も厚い地層を発見し、海洋無酸素事変2は、7回の火山活動の活発化によって起こったことを明らかにしました。
  • 火山活動の活発化と同期して、東アジアの降水量が大幅に増加したことが明らかになりました。

【概要】

 海洋無酸素事変2は、恐竜などの絶滅を引き起こした隕石衝突事件を除くと、白亜紀最大の生物絶滅事件の一つとされています。

 東北大学総合学術博物館の髙嶋礼詩教授と英国ダラム大学のDavid Selby教授を中心とした研究グループ(福井県立大学、他)は、海洋無酸素事変2の期間に堆積した、世界で最も厚い地層を北海道苫前町で発見しました。

 今回発見した地層(蝦夷層群)は、アジア大陸東沖の北西太平洋の半深海で堆積したと考えられます。この地層の岩石に対して各種分析(オスミウム同位体比(注2、炭素安定同位体比(注3、無機元素組成4、微化石、有機分子化石(注5分析)を行った結果、この時期には7回の巨大火山噴火があり(図2)、火山ガスを介して大量の二酸化炭素が大気中に放出され、地球温暖化と一部の地域での極端な湿潤化が起こったことが明らかになりました。さらに、特にアジア大陸東部の降水量が大幅に増加し、大量の栄養塩がアジア大陸から太平洋へと流出した結果、世界中の海洋の溶存酸素が著しく低下した可能性が高い(図3)ことが分かりました。降水量の増加は、東アジアの植生を裸子植物優勢の森林から被子植物優勢の森林へと一変させたことも分かりました(図3)。当時の地球温暖化は、陸上の植生と海洋環境に多大な影響を与え、その回復に60万年の時間を要したことになります。

 この研究成果は、2024219日発行のオープンアクセス国際学術誌Communications Earth & Environmentにおいて発表されました。

図1.白亜紀の古地理図と検討した地層(蝦夷層群)、巨大火山体の位置

【用語解説】

注1. 海洋無酸素事変2:
白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)の中ごろには、海洋において酸素に乏しい水塊が広域に発達した現象が何度か発生したことが知られており、海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Events、略してOAEs)と呼ばれている。白亜紀には8回程度の海洋無酸素事変(Faraoni OAE、 OAE1a、 Fallot OAE、 OAE1b、 OAE1c、 OAE1d、 OAE2、 OAE3など)が起こったが、無酸素水塊の発達範囲や海洋生物の絶滅率に関しては、「海洋無酸素事変2」が最大規模とされている。海洋無酸素事変2の引き金となった大規模火山活動は、カリブ海海面下にあるカリブ海台(白亜紀当時は中央太平洋に位置していた)、マダガスカル洪水玄武岩、北極圏巨大火成岩岩石区などが挙げられているが、いずれの影響によるかは、いまだ明らかでない。大規模な火山活動によって急激な温暖化と湿潤化が生じ、大量の栄養塩が大陸から海洋にもたらされた結果、海洋の富栄養化と一次生産の増加に起因した無酸素水塊の拡大が生じたと考えられている。今回、当時最大の大陸であったアジア大陸の湿潤化に伴う降水量の増加がこの海洋無酸素事変2の発生に大きく寄与した可能性を指摘することができた。

注2. オスミウム同位体比
白亜紀には,日本列島の数倍の面積に達する巨大な玄武岩の火山が海底にいくつか形成された.これらの火山の噴火の際には,マントルに含まれる188Osも大量に海水中に放出され、全海洋の海水のオスミウム同位体比(187Os/188Os)が大きく減少した。こうした変動は地層の中に記録され、過去の火山活動の変化を復元することが可能である。

注3. 安定炭素同位体比:
堆積物中の有機物や炭酸塩化石に含まれる炭素の2つの同位体[炭素12(12C)と炭素13(13C)]の比を国際標準物質の炭素同位体比に対する千分率偏差で表したもの(δ値と称し、ここではδ13C値)。地層中の有機物や炭酸塩化石には当時の地球表層(大気や海洋中)の同位体比が記録されている。海洋無酸素事変で大量の有機炭素が堆積物中に埋没すると、地層に記録された炭素同位体比(13C/12C)は大きくなるため、海洋無酸素事変の指標となる。

注4. 無機元素含有量:
泥岩に含まれる各種無機元素のうち、カリウムとルビジウムの比は、当時の大陸風化の強弱を反映し、風化が強まるほど、堆積物に含まれるルビジウムに対するカリウムの比率が高くなる。一方、泥岩中の黄鉄鉱化した鉄の量(パイライト化度)は、地層ができた当時の海洋底層の溶存酸素量の指標となる。海底の溶存酸素が減少するほど、海底では多くの硫化水素(H2S)が発生して堆積物中の鉄と結合して黄鉄鉱(FeS2)が生じるために、パイライト化度は高くなる。

注5. 有機分子化石:
地層中に残された生物由来の有機分子の中で、芳香族トリテルペノイドとジテルペノイドは、それぞれ、被子植物と裸子植物に由来する。このため、これらの有機分子の比は、当時の植生における被子/裸子植物比を反映する。

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学総合学術博物館
教授 髙嶋 礼詩  (たかしま れいし)
電話:022-795-6620
Email:reishi.takashima.a7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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