2024年 | プレスリリース・研究成果
産後うつの生じ易さを左右する遺伝子座を特定
【本学研究者情報】
〇東北メディカル・メガバンク機構 災害精神医学分野 教授 富田 博秋
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 産後うつについてゲノムワイド関連解析(GWAS)(注1)を行い、8つの遺伝子座が有意に相関することを特定しました。
- 本解析では、出産回数、および、同居する家族の人数を最も影響の大きい因子と特定し、年齢とともに、この2つの要因を交絡因子としました。
- これらの遺伝子座は、うつ病、双極症、統合失調症、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症などの精神疾患との関連が報告されており、産後うつの罹患リスクと他の精神疾患の罹患リスクとの共通性が示唆されました。
- これらの知見は、産後うつの病因解明を進める上で有力な手掛かりとなることが期待されます。
【概要】
日本では約15%の妊産婦が産後うつの状態を呈すると試算されます。しかし、その高い有病率と母子に及ぼす深刻な影響にもかかわらず、その基盤となる生物学的特性についてはほとんど知られていません。近年、うつ病をはじめとする様々な精神疾患の罹患感受性に関連する遺伝子座が報告されていますが、産後うつと有意に関連する遺伝子座を同定した研究はありませんでした。
東北大学と名古屋大学の研究グループは、東北メディカル・メガバンク計画(注2)による三世代コホート調査(注3)および名古屋大学において登録された周産期女性を調査対象として、産後うつに関連する遺伝子座を明らかにするためのGWASを実施しました。まず、産後うつのGWASに最も影響の大きい交絡因子として、出産回数、および、同居する家族の人数を特定しました。基本的属性である年齢とともに、この2つの要因を交絡因子として調整した上で、産後うつに相関するゲノム多型を特定するためのGWASを実施しました。その結果、産後うつに有意に相関する8つの遺伝子座を特定しました。これらの遺伝子座は、他の精神疾患との関連が報告されており、産後うつの罹患リスクと他の精神疾患の罹患リスクの共通性が示唆されました。
これらの知見は、今後、産後うつの病因解明を進める上で有力な手掛かりとなり、産後うつのリスク評価に基づいた対策の検討にも繋がることが期待されます。
本成果は 2024年9月18日(日本時間)に精神医学分野の専門誌 Psychiatry and Clinical Neurosciences に掲載されました。
図1. ゲノムワイド相関解析による産後うつ病感受性遺伝子座の特定
東北メディカル・メガバンク計画(TMM)による三世代コホート調査に登録する妊産婦のうち、調査前半で登録しv2型のマイクロアレイで解析された集団(n=9,260人)と調査後半で登録してNEOで解析された集団(n=8,582)、および、名古屋大学で登録された集団(n=997人)のGWASのメタ解析を行った結果、産後うつにP < 5×10-8の水準で有意に相関する8つの遺伝子座(DAB1遺伝子領域内に位置する多型rs377546683、UGT8遺伝子近傍に位置する多型rs11940752、DOCK2遺伝子領域内に位置する多型rs141172317、rs117928019、rs76631412、rs118131805、ZNF572近傍に位置する多型rs188907279、DIRAS2近傍に位置する多型rs504378、rs690150、rs491868、rs689917、rs474978、rs690118、rs690253、ZNF618遺伝子領域内に位置する多型rs1435984417、PTPRM近傍に位置する多型rs57705782、PDGFB近傍に位置する多型rs185293917)が同定されました。これらの遺伝子座の多くは、大うつ病性障害、双極性障害、統合失調症、注意欠陥・多動性障害、自閉症スペクトラム障害などの精神疾患との関連が報告されています。この結果は、産後うつ病と他の精神疾患が共通する遺伝的要因を持つ可能性を示唆しています。
【用語解説】
注1.ゲノムワイド関連解析(GWAS): DNAマイクロアレイ等を用いて、全ゲノムのDNA多型のアレルを解析して、特定の疾患の非血縁の患者集団と非血縁の健常対照集団との間で統計学的に有意な頻度差を示すDNA多型部位を網羅的に検索する手法である。GWASの対象者は、疾患のある人(症例)とない人(対照)のようにカテゴリに分けられる表現型であったり、血圧などの特定の形質についての連続する数値で表される表現型であったりする。あるDNA多型のあるアレルが対照者に比して罹患者に有意に多く見られる場合、そのアレルはその疾患と有意に相関していると判断され、その多型部位は、疾患のリスクに影響を与える可能性のあるヒトゲノムの領域を示していると考えられる。
注2. 東北メディカル・メガバンク計画:東日本大震災からの復興事業として、被災地の健康復興と、個別化ヘルスケアの実現を目指して平成24年度から行われている東北メディカル・メガバンク事業。宮城県と岩手県在住の住民を中心とした合計 15 万人のコホートは地域住民コホートと三世代コホートから成っている。
注3. 三世代コホート調査:宮城県の産科医療機関で研究の趣旨を理解し、登録への同意の得られた妊婦とその配偶者とその双方の両親、新生児とその同胞からなる三世代の家族構成員7万人超からなるコホート調査。
【論文情報】
タイトル: Identification of risk loci for postpartum depression in a genome-wide association study
(ゲノムワイド相関解析による産後うつ病の罹患感受性遺伝子座の同定)
著者: 李 雪, 高橋 長秀, 成田 暁, 中村 由嘉子, 櫻井 美佳, 村上 慶子, 石黒 真美, 小原 拓, 菊谷 昌浩, 上野 史彦, 目時 弘仁, 大瀬戸 恒志, 高橋 一平, 中村 智洋, 割田 紀子, 庄子 朋香, 兪 志前, 小野 千晶, 小林 奈津子, 菊地 紗耶, 松木 佑, 長神 風二, 荻島 創一, 菅原 準一, 星合 哲郎, 齋藤 昌利, 布施 昇男, 木下 賢吾, 山本 雅之, 八重樫 伸生, 尾崎 紀夫, 田宮 元, 栗山 進一, 富田 博秋
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科(東北大学東北メディカル・メガバンク機構兼務) 教授 富田 博秋
掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences
DOI:10.1111/pcn.13731
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野
東北メディカル・メガバンク機構 災害精神医学分野(兼務)
東北大学災害科学国際研究所 災害精神医学分野(兼務)
教授 富田 博秋
TEL: 022-717-7262
Email: psy*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学東北メディカル・メガバンク機構広報戦略室
長神 風二(ながみ ふうじ)
TEL: 022-717-7908
Email: tommo-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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