2024年 | プレスリリース・研究成果
次世代半導体・酸化ガリウムウエハの低コスト量産化に向け東北大学発スタートアップ:株式会社FOXを起業 ―低損失・高性能なパワーデバイスによる脱炭素社会実現へ貢献を目指す―
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 教授 吉川彰
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 東北大学と東北大学発スタートアップの株式会社C&Aが共同開発した貴金属フリーの単結晶育成技術OCCC(オートリプルシー)法を用いて、高品質な酸化ガリウム(β-Ga2O3)ウエハを量産するスタートアップ:株式会社FOXを起業しました。
- 高価な貴金属を使用せずに β-Ga2O3バルク単結晶製造が可能となるため、製造コストを既存の製造方法の100分の1に低減でき、デバイス製造のトータルコストの大幅削減が期待されます。
- 株式会社FOX はVCからの出資7億円とNEDOのディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業(注1)(DTSU事業)(5億円)採択を受け、東北大学との共創体制で半導体事業の産業振興と脱炭素社会実現への貢献を目指します。
【概要】
カーボンニュートラル実現に向け、家電・電気自動車・産業用機械・再生可能エネルギー等の電力変換をおこなうパワーデバイス(注2)の省エネルギー化が必要となっています。β-Ga2O3は、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に比べてバンドギャップが広く、更に高性能でエネルギー損失の少ないパワーデバイスとして期待されています。加えてβ-Ga2O3はシリコン(Si)同様に融液成長(注3)が可能なため、理論的には低コストで低欠陥の単結晶基板(ウエハ)作製が可能です。しかしながら従来の結晶育成法では、高融点酸化物の融液を保持するルツボに貴金属であるイリジウム(Ir:約2.6万円/g@2024年8月相場)を用いており、定期的な改鋳も必要なことから、Ir由来のコストが半導体前工程の一部の薄膜製造を含むコストの6割以上を占め、β-Ga2O3デバイスの製造コストの低減が非常に困難でした。現状、β-Ga2O3基板は次世代パワー半導体の代表格のSiC基板よりも高価となり、β-Ga2O3の普及は進んでいません。この課題を解決すべく、東北大学発スタートアップ株式会社FOXを起業しました。マクニカ・インベストメント・パートナーズ、岩谷ベンチャーキャピタル、合同会社東北テックベンチャーズ等からの出資とNEDO DTSU事業の支援を受け、β-Ga2O3の低コストで低欠陥の大口径ウエハ製造技術を確立して量産することで、β-Ga2O3パワーデバイスの社会実装を促し、脱炭素社会の実現に大きく貢献することが期待されます。
図1 OCCC法の概要図
【用語解説】
注1. ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)支援事業
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援事業の1つです。技術の確立や事業化・社会実装までに長期の研究開発と大規模な資金を要し、リスクは高いものの国や世界全体で対処すべき経済社会課題(カーボンニュートラル、資源循環、経済安全保障等)の解決に貢献することが期待される革新的な技術の研究開発を支援しています。
DTSUは最大30億円の研究助成が行われる事業で、3つのフェーズSTS フェーズ(実用化研究開発(前期))、PCA フェーズ(実用化研究開発(後期))、DMP フェーズ(量産化実証)の段階においてディープテック・スタートアップに対し、、研究開発や事業化のための支援を行われます。支援規模はベンチャーキャピタル(VC)からの出資額に応じて決定されます。今回、株式会社FOXはSTSフェーズに採択されました。
注2. パワーデバイス
直流を交流に変換するインバータ、交流を直流に変換するコンバータ、周波数変換などの機能を持つ電力変換器を構成する最も重要な半導体デバイスの総称です。電車や電気自動車、家電製品、照明器具、電磁調理器、コンピュータの電源部品など身近なさまざまな場面でパワー半導体が使用されています。パワー半導体とも呼ばれます。
注3. 融液成長
材料を融点まで加熱して溶かした後に冷却することで単結晶を作る方法です。SiやGaAs等の半導体、LiTaO3、LiNbO3等の圧電体、Ce:Lu2SiO5、Ce: Gd3(Al,Ga)5O12等のシンチレータなど、一般社会で使われている機能性単結晶の量産に最も多く用いられている結晶作製法の1つです。
【論文情報】
タイトル:Growth of bulk β-Ga2O3 crystals from melt without precious-metal crucible by pulling from a cold container
著者: Akira Yoshikawa*, Vladimir Kochurikhin, Taketoshi Tomida, Isao Takahashi, Kei Kamada, Yashuhiro Shoji, Koichi Kakimoto
*責任著者:東北大学金属材料研究所 教授 吉川 彰
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-024-65420-7
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
教授 吉川 彰
TEL: 022-215-2217
Email: akira.yoshikawa.d8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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