2024年 | プレスリリース・研究成果
疾患の原因となりうる細胞内の顆粒の細胞内定量に成功 ~生きた細胞内の相分離液滴は必ずしも密な構造ではない~
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 生物構造化学分野
准教授 梶本真司
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- ALS(注1)やがんの創薬標的とされるストレス顆粒(注2)について、内部の化学組成、分子構造、濃度を、生きた細胞内で定量することに成功しました。
- ストレス顆粒内部は高度に濃縮された密な環境ではなく、顆粒の周囲と同程度、場合によっては周囲よりも疎な環境になることがわかりました。
- ストレス顆粒などの相分離液滴(顆粒)の定量的な理解が深まることで、液滴を介した疾患の発症機構の解明や創薬への展開が期待されます。
【概要】
液-液相分離現象(注3)によって細胞内で形成される生体分子の濃厚相(液滴)は、膜のない細胞内小器官と呼ばれ、細胞の区画化や反応場の提供など様々な役割を有しています。その一方で、液滴内にあるタンパク質の異常凝集により、ALSやがん等を引き起こす原因となることも指摘されています。
東北大学大学院薬学研究科の澁谷蓮大学院生、梶本真司准教授、中林孝和教授らは、ラマン顕微鏡(注4)と呼ばれる技術を用いて、液-液相分離によって形成された生細胞内の単一液滴をその場で定量評価する手法を提案しました。この手法を用いて、細胞内液滴の一つであるストレス顆粒を測定し、ストレス顆粒内部の核酸濃度をその場で測ることに成功しました。さらにストレス顆粒内外の生体分子の濃度環境を定量的に比較することで、ストレス顆粒は必ずしも密な構造ではないことを明らかにしました。
本手法はあらゆる細胞内液滴の分析に適用可能であり、液滴と様々な生理現象や疾患との関係の解明、創薬への展開など幅広い応用が期待されます。
本成果は2024年10月15日 (火) にアメリカ化学会の学術誌Analytical Chemistryに掲載されました。
図1. 酸化ストレスを負荷した細胞の (A) 近赤外蛍光画像と (B~D) 対応するラマン画像。各ラマン画像は (B) 核酸、 (C) 脂質、 (D) タンパク質の分布を示している。
【用語解説】
注1. ALS
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)の略。神経変性疾患(注5を参照)の一つであり、体を動かす筋肉が萎縮する難病。
注2. ストレス顆粒
細胞がストレスにさらされた際に、液-液相分離(注3を参照)によって一時的に形成される細胞内液滴。主にmRNAやRNA結合タンパク質から構成され、細胞のストレス適応に重要な役割を果たす。一方で、ストレス顆粒の異常凝集や分解不全が様々な疾患の発症に関連することも示唆されている。
注3. 液-液相分離(Liquid-liquid phase separation, LLPS)
均一な生体分子の水溶液が、生体分子が高濃度で存在する液相(液滴)と希薄な液相の二相に分離する現象。
注4. ラマン顕微鏡
物質に光を照射すると、光と物質が相互作用を起こすことで散乱が起こる。散乱光のほとんどは入射光と同じ波長を持つレイリー散乱光であるが、ごく一部、物質中の分子の振動の影響を受けて入射光と異なる波長を持つラマン散乱光が含まれている。このラマン散乱光のエネルギー差から、分子の構造を解析する手法をラマン分光法と呼び、この手法を顕微鏡下で行い、微小な領域の分子の情報を得る技術をラマン顕微鏡という。
【論文情報】
タイトル:Nucleic Acid-Rich Stress Granules Are Not Merely Crowded Condensates: A Quantitative Raman Imaging Study
著者: Ren Shibuya, Shinji Kajimoto*, Hideyuki Yaginuma, Tetsuro Ariyoshi,
Yasushi Okada, Takakazu Nakabayashi*
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科 准教授 梶本真司、同教授 中林孝和
掲載誌:Analytical Chemistry
DOI:10.1021/acs.analchem.4c01096
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 中林孝和
TEL: 022-795-6855
Email: takakazu.nakabayashi.e7*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 ・ 薬学部
総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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