2025年 | プレスリリース・研究成果
肝臓ゾネーションが全身糖代謝と体組成を制御する新しい臓器間ネットワーク機構を解明~糖尿病と肥満に向けた新しいアプローチへの期待~
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野 教授 片桐秀樹
研究室ウェブサイト
【概要】
2025年1月25日(土)、帝京大学医学部内科学講座准教授 宇野健司らの研究グループが、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野教授 片桐秀樹と東京女子医科大学実験動物研究所教授 本田浩章と連携し、動物モデル(遺伝子改変モデルマウス)を用いて、肝臓に端を発した、全身糖代謝と体組成を制御する新しい臓器間ネットワーク機構の存在とその仕組みを明らかにしました。
肝臓は、肝細胞や動静脈、門脈、胆管などによって構築される無数の肝小葉構造が集まってできています。様々な栄養素の代謝(metabolism)は、肝小葉内の領域ごと(門脈域、中心静脈域、中間域)に分かれて(zonation)調節されており、このことは代謝の肝臓ゾネーション(metabolic liver zonation※1)と呼ばれています。しかし、これまで肝臓ゾネーションの詳細なメカニズムは明らかではありませんでした。
そこで、本研究では、この肝臓ゾネーションが生体内で時空間的にどのように調節され、全身の代謝や脂肪組織・骨格筋などの他臓器へいかなる影響を及ぼすのか、その機序を解明することとしました。具体的には、肝臓ゾネーションに関与するR-spondin3(Rspo3)(※2)蛋白を標的とし、モデルマウスを用いた様々な検討を行いました。その結果、生体内には、肝臓のRspo3に由来する新しい臓器間のネットワーク機構が存在することを見出しました。さらに、肝臓がこのネットワークを介して、脳や筋肉、脂肪組織と連携することにより、全身の糖代謝を制御する、また褐色脂肪組織や白色脂肪組織由来のエネルギー消費のバランスを制御するという、新たな知見を得ました。
【用語解説】
※1.Metabolic liver zonation(代謝の肝臓ゾネーション)
肝臓は、特徴的な肝小葉構造から成り、小葉内では肝細胞は中心静脈を中心に放射状に配し、辺縁には門脈・動脈・胆管、その間を類洞が繋いでいます。消化管から摂取された栄養素は、肝小葉内では門脈域から類洞を通り中心静脈域に流れることから、中心静脈域や門脈域の領域に応じて糖・脂質・アミノ酸代謝の比重が異なるという時間的なMetabolic zonation(代謝の領域局在性)が存在しています。また、肝臓内門脈域の肝細胞では糖新生・脂肪酸酸化・尿素合成の代謝、中心静脈域の肝細胞では解糖・脂肪酸合成・グルタミン合成の代謝の比重が多いとされ、肝臓内における栄養素代謝には空間的なMetabolic zonationがあるとされます。
※2. R-spondin3(Rspo3)
Rspo3は全身の各臓器、特に肝臓での発現が多いとされ、Wntとその下流b-catenin経路を介して、肝臓ゾネーションに関わるとされています。
【論文情報】
タイトル:Rspo3-mediated metabolic liver zonation regulates systemic glucose metabolism and body mass in mice
著者: Kenji Uno (Corresponding author), Takuya Uchino, Takashi Suzuki, Yohei Sayama, Naoki Edo, Kiyoko Uno-Eder, Koji Morita, Toshio Ishikawa, Miho Koizumi, Hiroaki Honda, Hideki Katagiri, Kazuhisa Tsukamoto
掲載誌:PLOS Biology
DOI:10.1371/journal.pbio.3002955
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