2025年 | プレスリリース・研究成果
海と川を行き来する魚は「海らしさ」を失いながらも海由来の物質を川へ届ける
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 准教授 宇野裕美
研究室ウェブサイト
【概要】
生涯の中で海と川を行き来する通し回遊性魚類1は、生物体そのものあるいは排泄物という形で、海から川へ海の物質を運ぶことで、川の生物多様性や物質循環に大きく影響します。例えば、高緯度地域では、膨大な数のサケ科魚類が産卵のために海から川へ移動する結果、藻類や水生昆虫、魚など、川の多様な生き物へ海由来の物質が届けられ、生物の成長や個体数を支えることで、生物あふれる川の生態系がつくり出されています。一方で、日本を含む低-中緯度地域では、アユやハゼ科魚類など、サケ科魚類をはるかにしのぐ多様な両側回遊性魚類が海から川に移動しているにも関わらず、それらが川の生態系に果たす役割はほとんどわかっていません。
京都大学大学院理学研究科の田中良輔 博士後期課程学生、摂南大学の國島大河 講師、和歌山県立自然博物館の平嶋健太郎 学芸員、富山大学の太田民久 講師、総合地球環境学研究所の由水千景 上級研究員、陀安一郎 教授、東北大学大学院生命科学研究科の宇野裕美 准教授、京都大学生態学研究センターの佐藤拓哉 准教授からなる研究グループは、9種の両側回遊性魚類が、海から川へ移動する過程で摂餌・成長することにより、体に蓄えている海由来の物質の割合(海らしさ)を失いながらも、海の物質を川へ届けていることを定量的に示しました。さらにその海らしさの程度が種間(9種類、中央値で11-82%)や種内(例:ボウズハゼの場合、22-97%)で大きく異なることを明らかにしました。本成果は、低-中緯度地域に広く分布する両側回遊性魚類による海と川の繋がりを理解するための知識基盤を提供するものです。
本研究成果は、2025年5月21日にイギリスの国際学術誌「Journal of Fish Biology」にオンライン掲載されました。

図1. 本研究の概要 (A)は本研究で対象とした両側回遊性魚類。(B)は海らしさの種間、種内変異に関する概念図。
【用語解説】
1.通し回遊性魚類:生涯の中で海と川を行き来する魚類。産卵と成長のタイミングを海と川のどちらで過ごすかによって、遡河回遊性魚類、降河回遊性魚類、両側回遊性魚類に分類されます。遡河回遊性魚類は、海で成長し、川で産卵を行う魚類で、サケ科魚類があたります。降河回遊性魚類は、ウナギのように川で成長し、海で産卵する魚類のことをいいます。アユやハゼ科魚類のように、川で孵化した後、すぐに海に移動し、種ごとに数週間から数ヶ月程度の初期成長を行った後、再び川に移動し成長と繁殖を行う魚類のグループのことを両側回遊性魚類といいます。
【論文情報】
タイトル:Inter- and intra-specific variation in the degree of marine-derived resources of amphidromous fishes(両側回遊性魚類の体を構成する海洋由来物質の割合における種間、種内変異)
著者:Ryosuke Tanaka, Taiga Kunishima, Kentarou Hirashima, Tamihisa Ohta, Chikage Yoshimizu, Ichiro Tayasu, Hiromi Uno, Takuya Sato
掲載誌:Journal of Fish Biology
DOI:10.1111/jfb.70084
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
准教授 宇野裕美
TEL: 022-795-6681
Email: hiromi.uno.c5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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