2025年 | プレスリリース・研究成果
次世代半導体材料SnSの大面積単層結晶の合成技術を確立 ─光電融合デバイスや高速情報処理技術への応用が期待─
【本学研究者情報】
〇東北大学大学院工学研究科
教授 好田 誠
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 高純度のスズ(Sn)と硫黄(S)のみを用いた化学気相成長(CVD)法(注1)により、高品質な一硫化スズ(SnS)の半導体結晶成長に成功しました。
- 成長した単結晶をもとに大面積の単層SnS薄膜を合成し、その薄膜化メカニズムを解明しました。
- SnS半導体を活用することで、電子スピン波(注2)を基盤とする次世代情報処理技術や光電融合デバイスへの応用が期待されます。
【概要】
原子1層(単層)で構成される「二次元物質」は、次世代半導体材料として注目され、研究開発が活発に進められています。これらの材料は優れた光電特性を備えており、なかでも電子の磁気的性質(スピン)を「電子スピン波」として活用することで、光電融合デバイスや高速情報処理技術への応用が期待されています。地球上に豊富に存在し毒性もないスズ(Sn)と硫黄(S)の化合物である二次元原子層物質の硫化スズ(SnS)は、このような新奇スピン機能の発現が期待される材料の一つです。その特性を発揮するには単層であることが不可欠ですが、これまで大面積の単層SnSを得るのは困難でした。
東北大学大学院工学研究科の小山和輝大学院生、石原淳助教、好田誠教授、量子科学技術研究開発機構高崎量子技術基盤研究所量子機能創製研究センターの圓谷志郎上席研究員、英国ケンブリッジ大学工学部のStephan Hofmann教授らは、SnSの大面積単結晶の成長に成功し、さらにその結晶を単層厚さに薄膜化する新たな手法を確立しました。成長したSnS結晶は、NanoTerasu(ナノテラス)の高輝度放射光を利用した先端測定技術を含む、多様な手法で評価されました。
本研究における大面積の次世代半導体材料の作製技術は、革新的なスピントロニクスデバイスの実現に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2025年5月20日付で科学誌Nano Lettersに掲載されました。

図1. 本研究成果の概念図。CVD成長したSnSを熱昇華によって単層まで薄くしている。
【用語解説】
注1. 化学気相成長(CVD)法:加熱された反応器内に気体状の前駆体を導入し、基板上で反応させて、二次元材料の原子レベルの薄膜を合成する方法。スケーラブルかつ高品質な二次元材料の合成に適している。
注2. 電子スピン波:特定のスピン軌道相互作用の条件下で、スピンがらせん状のパターンを形成し、波のように振る舞う状態を指す。電子スピン波は、スピンを用いた情報処理や量子コンピューティングなどへの応用が期待されている。
【論文情報】
タイトル:Selective Synthesis of Large-Area Monolayer Tin Sulfide from Simple Substances
著者:Kazuki Koyama, Jun Ishihara, Nozomi Matsui, Atsuhiko Mori, Sicheng Li, Jinfeng Yang, Shiro Entani, Takeshi Odagawa, Makito Aoyama, Chaoliang Zhang, Ye Fan, Ibuki Kitakami, Sota Yamamoto, Toshihiro Omori, Yasuo Cho, Stephan Hofmann, and Makoto Kohda*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 好田 誠
掲載誌:Nano Letters
DOI:10.1021/acs.nanolett.5c01639
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
教授 好田 誠
TEL: 022-795-7316
Email: makoto.koda.c5*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科 情報広報室
沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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