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海馬と内側前頭皮質を結ぶ新たな神経回路の発見 ~記憶と感情、自律神経をつなぐ脳内ネットワーク~

【本学研究者情報】

〇生命科学研究科 准教授 大原慎也
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 記憶や感情のコントロールに重要な海馬(注1)から内側前頭皮質(注2)への神経接続を詳細に解析しました。
  • これまで見逃されていた背側海馬の後部と背側脚皮質(注3)をつなぐ神経回路の構成を明らかにしました。
  • この新たな回路は、記憶に基づいた感情の調節や自律神経の制御に関わっている可能性があります。

【概要】

嫌な記憶を思い出すと、胸が苦しくなったり冷や汗が出たりすることがあります。こうした「記憶」と「感情・自律神経」の連携は、危険を避けて生き延びるうえで重要なしくみです。

東北大学大学院生命科学研究科の大原慎也准教授らの研究グループは、記憶の中枢である海馬と、意思決定や感情の制御に関わる内側前頭皮質とをつなぐ神経回路を、最先端の神経科学的手法を用いて詳細に解析しました。その結果、これまであまり注目されてこなかった背側海馬の後部(dcHPC)が、自律神経系や情動の制御に関与する背側脚皮質(DP)と強く結びついていることが明らかになりました。さらに、この神経回路が多くの抑制性ニューロン(注4)に接続していることも判明し、dcHPCがDPの活動を抑制的に調整している可能性が示されました。

この発見は、記憶・感情・自律神経が脳内でどのように連動しているのかを理解するうえで、重要な手がかりとなります。

本研究結果は、2025年5月28日に北米神経科学学会による学術誌Journal of Neuroscienceに掲載されました。

図1 (A) 背側海馬後部(dcHPC)から内側前頭皮質への入力解析。ニューロンからニューロンへと伝播するアデノ随伴ウイルスベクター セロタイプ1(AAV1)をdcHPCに注入することで、dcHPCニューロンと接続している内側前頭皮質ニューロンを赤色蛍光タンパク質mCherryで標識(マゼンタ)。さらに、抑制性ニューロンを染色(黄色)することで、dcHPC入力を受ける内側前頭皮質の抑制性ニューロンを特定した(右図の白矢印)。(B)本研究で明らかにした海馬と内側前頭皮質を結ぶ神経回路の模式図。背側海馬後部(dcHPC)は、感情の調節や自律神経の制御に関わる背側脚皮質(DP)と接続する。

【用語解説】

注1. 海馬:記憶の中枢である「海馬」は細長い形をした脳領域で、齧歯類(ラット、マウス)では背腹軸に沿って展開しています。海馬の働きは背側部と腹側部で異なり、背側部は空間認識や記憶の正確さに関係し、腹側部は不安やストレスなどの感情や自律神経の働き(心拍や呼吸など)に関わっています。

注2. 内側前頭皮質:内側前頭皮質は、「考える」「選ぶ」「感情をコントロールする」といった高度な機能を担う脳領域です。この脳領域も、背側と腹側で役割が異なり、背側部は記憶や注意など認知的な働きをするのに対し、腹側部は感情の制御に関わります。

注3. 背側脚皮質:内側前頭皮質を構成する亜領域のひとつで、最も腹側に位置します。扁桃体や視床下部とつながっており、感情や自律神経の制御に関わります。

注4. 抑制性ニューロン:GABAという神経伝達物質を使って、他のニューロンの興奮を抑え、情報をコントロールする役割を担っています。

【論文情報】

タイトル:Dorsal-caudal and ventral hippocampus target different cell populations in the medial frontal cortex in rodents
著者: Paola Alemán-Andrade, Menno P. Witter, Ken-Ichiro Tsutsui, Shinya Ohara*
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 准教授 大原慎也
掲載誌:Journal of Neuroscience
DOI:10.1523/JNEUROSCI.0217-25.2025.

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
准教授 大原 慎也 (おおはら しんや)
TEL:022-217-5052
Email:shinya.ohara.d3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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