本文へ
ここから本文です

燃料を使わずトラクターミリ波ビームでロケットに推進力を与える実証実験に成功 ─ 地球と地球外惑星からのロケット打ち上げに期待 ─

【本学研究者情報】

〇大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻
准教授 高橋 聖幸
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 前方から照射されたミリ波(注1ビームに引き寄せられるように飛行する無燃料ロケットの推力生成実証に世界で初めて成功しました。
  • 「トラクターミリ波ビーム推進機」を開発し、機体ボディ前方に装着したフッ素樹脂ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製レンズによってビームを集光し、プラズマ(注2を生成することに成功しました。
  • 地球からの打ち上げのみならず、軌道上衛星からのトラクターミリ波ビーム照射により推力を遠隔で供給し、火星など地球外惑星からのロケット打ち上げを実現できる可能性があります。

【概要】

ミリ波ビームをロケットに照射して無燃料で打ち上げる「マイクロ波(注3ロケット」は、次世代の低コスト宇宙輸送システムとして注目されています。しかし、照射されたビームの射線上にプラズマが残留し、ビームを繰り返し照射した際に推力が低下するという課題がありました。

東北大学大学院工学研究科の高橋聖幸准教授と山田峻大大学院生(研究当時)、筑波大学 数理物質系 / プラズマ研究センターの南龍太郎准教授と假家強教授、東京都立大学大学院システムデザイン研究科の嶋村耕平准教授らは、独自に開発した「トラクターミリ波ビーム推進機」の推力生成実験を行い、ロケット前方からのミリ波ビームの照射により、ビーム源に引き寄せられるような推力を発生させることに世界で初めて成功しました。これにより、プラズマはロケット後方へと排気され、ビームの射線上には残留せず、繰り返しビーム照射時の推進性能が維持される可能性が示されました。この推進技術は、地球からの打ち上げのみならず、軌道上衛星からのトラクタービーム照射により火星など地球外惑星からの離脱ができる可能性があり、将来の宇宙ミッションに貢献することが期待されます。

本研究成果は、2025年5月20日付けの科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

図4. トラクターミリ波ビーム推進機におけるビーム照射実験とプラズマの様子。プラズマはレンズの集光点付近で生成され、ビーム源方向に向かって伝搬していく。パルス幅が長いとプラズマフロントがレンズに到達し、それでもなおビーム照射を継続すると、レンズ脇の吸気口からロケット外部へと流出し、推進効率が低下することが分かった。高い推進効率を達成するためには、プラズマフロントの伝搬距離はレンズの焦点距離を超えないよう、設計する必要がある。

【用語解説】

注1. ミリ波
波長1-10 mm(周波数30-300 GHz)の電波。短距離の無線通信、簡易無線、車両搭載レーダー、電波望遠鏡、天文観測装置などに使われている。情報伝送能力が高い、直進性が強く回折しにくい、悪天候や障害物に弱いといった特徴がある。

注2. プラズマ
気体に高エネルギーが付与され、分子や原子が電離し、イオンと電子に分かれた状態。電磁場に反応しやすく、レーザー推進などのエネルギー伝達過程で重要な役割を果たす。

注3. マイクロ波
波長1-10 cm、周波数3-30 GHzの電磁波。通信用電波としても広く利用されている。ビーム推進分野では、大まかな区分としてレーザー推進とマイクロ波ロケットに分けられており、マイクロ波ロケットの中にミリ波の波長帯を用いたものも含まれている。

【論文情報】

タイトル:Experimental demonstration of tractor millimeter wave beam propulsion
著者:Masayuki Takahashi*, Toshiki Yamada, Ryutaro Minami, Tsuyoshi Kariya, and Kohei Shimamura
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 准教授 高橋 聖幸
掲載誌:Scientific Report, Vol. 15, 17544 (2025).
DOI:10.1038/s41598-025-02791-5

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
准教授 高橋 聖幸
TEL: 022-795-3864
Email: masayuki.takahashi.c8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs07 sdgs09

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ