2025年 | プレスリリース・研究成果
矯正歯科治療の進展に光明―骨細胞のネクロプトーシスが歯の移動をコントロールしていることを発見―
【本学研究者情報】
〇大学院歯学研究科 顎口腔矯正学分野
准教授 北浦英樹
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 歯に矯正力が加わると骨を構成する細胞(骨細胞)は細胞死して破骨細胞(注1)が形成されますが、その過程の多くは未解明でした。
- 矯正学的歯の移動のモデルマウス(注2)を用いることで、骨細胞のネクロプトーシス(注3)が破骨細胞形成を増強していることを世界で初めて明らかにしました。
- 本研究成果は、矯正歯科治療における歯の移動のコントロールや骨細胞を標的とした新しい治療法開発につながることが期待されます。
【概要】
矯正歯科治療における歯の移動は、歯に力を加えて組織反応を生じさせ、破骨細胞が歯槽骨(注4)を吸収することで達成されます。しかしながら、破骨細胞が形成される過程については未解明な点が多く、予知性の高い矯正歯科治療を行うためにも、破骨細胞制御機構の全容解明は重要な研究課題となっています。
東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野の大堀文俊助教、北浦英樹准教授および溝口到前教授らの研究グループは、矯正学的歯の移動のモデルマウスを用いることで、歯に矯正力が加わると骨細胞が細胞死の一種であるネクロプトーシスを起こしていることを世界で初めて発見しました。また、ネクロプトーシスした骨細胞はDAMPs(注5)を含む因子を放出し、破骨細胞形成を増強していることを見出しました。本研究成果は、矯正歯科治療における歯の移動のコントロールに役立てられることが期待されます。
この研究成果は、2025年6月3日にScientific Reportsに掲載されました。

図1. 矯正学的歯の移動のモデルマウスにおける骨細胞のネクロプトーシス
【用語解説】
注1.破骨細胞: 骨の吸収(骨の破壊)を担う多核の細胞で、骨のリモデリング(骨の新陳代謝)に重要な役割を果たしている。
注2. 矯正学的歯の移動のモデルマウス: 矯正歯科治療によって歯が動くしくみを研究するために開発された実験用マウス。マウスの歯に矯正力を加えることで、歯が骨の中を動く現象を再現することができる。
注3. ネクロプトーシス: アポトーシスやネクローシスとは異なる、制御された細胞死のひとつ。主にTNF-αにより誘導され、RIPK3依存的にMLKLのリン酸化および多量体が形成され、細胞膜に孔を形成する。
注4. 歯槽骨: 歯を支えるあごの骨の一部で、歯根を包み込むように形成されている。矯正歯科治療により骨のリモデリングを受け、吸収・再生が生じる。
注5. DAMPs: Damage-associated molecular patterns、ダメージ関連分子パターン。細胞傷害に伴い、細胞内にある内因性分子が細胞外に出ることで、炎症反応を引き起こす。
【論文情報】
タイトル:Osteocyte necroptosis drives osteoclastogenesis and alveolar bone resorption during orthodontic tooth movement
著者:Fumitoshi Ohori, Hideki Kitaura*, Aseel Marahleh, Jinghan Ma, Mariko Miura, Jiayi Ren, Kohei Narita, Ziqiu Fan, Angyi Lin, Itaru Mizoguchi
*責任著者:東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野 准教授 北浦英樹
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-04697-8
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科 顎口腔矯正学分野
准教授 北浦英樹
TEL: 022-717-8374
Email: hideki.kitaura.b4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科広報室
TEL: 022-717-8260
Email: den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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