2025年 | プレスリリース・研究成果
熱可塑性CFRPの破壊機構を計算と計測の融合で解明 ―リサイクルできるサステナブルな次世代航空機の実現に貢献―
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科航空宇宙工学専攻 助教 龍薗一樹
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【発表のポイント】
- 加熱によって樹脂が再溶融する熱可塑性CFRP(注1)は高速成形が可能でリサイクル性に優れることから、今後の航空機需要を支えるサステナブルな材料として期待されています。
- 拡張有限要素法(注2)を用いた数値解析と力学試験(注3)により、これまで未解明であった熱可塑性CFRPの積層構成(注4)が破壊機構に与える影響を明らかにし、先端放射光施設のX線マイクロCT(注5)を活用して破壊過程における微細な損傷を高精度に可視化しました。
- 本成果は、計算と計測の融合による材料破壊の学理構築を通じて、サステナブルな素材を用いた次世代航空機の実現に貢献すると期待されます。
【概要】
従来の航空機には、熱硬化性樹脂を用いた熱硬化性CFRP(注6)が広く使用されてきました。この材料は、積層構成を工夫することで所望の力学特性を実現でき、その構成によって破壊挙動が変化することも知られています。
一方、近年では、高速成形が可能でリサイクル性にも優れる熱可塑性CFRPに注目が集まっています。しかし、熱可塑性CFRPにおいては、積層構成が破壊機構に与える影響についての理解が十分に進んでおらず、適用に向けた課題となっていました。
東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の龍薗一樹助教らのグループは、拡張有限要素法を用いた数値解析と力学試験中の損傷進展観察を組み合わせた計算と計測の融合により、熱可塑性CFRPの破壊機構に対する積層構成の影響を初めて明らかにしました。さらに、3 GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(注7)での放射光X線マイクロCTを活用して、熱可塑性CFRPに特徴的な破壊過程における微細な損傷を高精度に可視化することに成功しました。本成果は熱可塑性CFRPを用いたサステナブルな次世代航空機の実現に貢献すると期待されます。
本成果は2025年6月5日に学術雑誌Journal of Thermoplastic Composite Materialsにて公開されました。

有孔引張試験における実験および解析結果:(a) Hard積層板の損傷分布。損傷はマトリックスクラックのみであり、破断直前まで繊維破断は生じていませんでした。(b) Soft積層板の損傷分布。マトリックスクラックだけでなく、繊維の損傷が荷重負荷方向に垂直に円孔端部から進展しました。(c) NanoTerasuで観察したSoft積層板の詳細な損傷分布。繊維破断のクラスターは連続しておらず、ある一定の範囲内に分布するクラスターがマトリックスクラックによりつながっていました。
【用語解説】
注1. 熱可塑性CFRP:炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)の一種で、強化材である炭素繊維と、母材となる熱可塑性樹脂から構成される複合材料です。CFRPは、使用される樹脂の種類に応じて、熱可塑性CFRPと熱硬化性CFRPに大別されます。熱可塑性CFRPは、加熱によって樹脂が溶融し、冷却によって再び固化するという可逆的な性質を持つため、熱硬化性CFRPと比べて成形時間が短く、再成形やリサイクルが可能であるという利点を持ちます。
注2. 拡張有限要素法:航空機向け構造材料のシミュレーションには、対象とするモデルを細かい要素に分割して計算する有限要素法が一般的に用いられます。拡張有限要素法は、複合材内部の損傷進展を簡便にシミュレーションできるように従来の有限要素法を拡張した数値解析手法の一つです。
注3. 力学試験:主に引張試験や圧縮試験などで材料の剛性や強度などの力学特性を評価する手法の総称です。本研究では、穴を開けたCFRPの試験片に対して、引張試験と圧縮試験を実施しました。
注4. 積層構成:CFRPは一般的に炭素繊維を一方向に引き揃えたシートをさまざまな角度で積み重ねて硬化させた積層板として使用されます。このシートを積み重ねる角度とその順序を積層板の積層構成と呼びます。
注5. X線マイクロCT:CT(Computed Tomography)はX線に対して試料を回転させて様々な方向の投影像を収集し、計算機上で三次元像を再構成する手法です。特に指向性が高く波面が揃った(コヒーレントな)放射光X線を用いることで、物体の内部損傷などをサブミクロン空間分解能かつ高いコントラストで非破壊観察することが可能です。
注6. 熱硬化性CFRP:母材に熱硬化性樹脂を用いたCFRPで、加熱によって樹脂が架橋構造を形成して硬化します。安定した力学特性や優れた耐熱性、耐薬品性を有することから、従来の航空機の構造材料として広く使用されてきました。一方で、一度硬化すると再成形ができず、リサイクル性に乏しいという課題があります。
注7. 3 GeV高輝度放射光施設NanoTerasu:東北大学青葉山新キャンパス内にある国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする放射光施設です。太陽光の約10億倍の明るさを持つX線を生成して物質に照射し、様々な物質の内部構造を詳細に観察できます。
【論文情報】
タイトル:Comparative study of thermosetting CF/epoxy and thermoplastic CF/PAEK composite laminates: Effects of stacking sequences on open-hole strength
著者:Kota Oine, Kazuki Ryuzono*, Yoshiaki Kawagoe*, Yamato Hoshikawa, Keiichi Shirasu, Yuki Takayama and Tomonaga Okabe
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 助教 龍薗一樹、同 助教 川越 吉晃(研究当時。現、東京大学特任准教授)
掲載誌:Journal of Thermoplastic Composite Materials
DOI:10.1177/08927057251344271
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
助教 龍薗 一樹
TEL: 022-795-6981
Email: ryuzono*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科
情報広報室 担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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