2025年 | プレスリリース・研究成果
汽水湖の生態系にとっては農薬よりも温暖化による塩分変化の影響が深刻 動物プランクトンの農薬暴露実験により判明
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 名誉教授 占部城太郎
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【発表のポイント】
- 汽水湖(注1)の生態系は農薬の流入や塩分変化による影響を受けることが指摘されてきましたが、それらの相対的なリスクは不明でした。
- 汽水湖に卓越して出現する動物プランクトン、キスイヒゲナガケンミジンコ(注2)を対象に、様々な塩分条件下で急性毒性試験を実施しました。
- キスイヒゲナガケンミジンコは農薬暴露よりも、海面上昇や渇水などによる塩分変化に強い影響を受けることがわかりました。
【概要】
汽水生態系は、淡水などに比べて動物プランクトンの種数が少なく、農薬汚染に脆弱である可能性が指摘されていました。しかし、動物プランクトンに対する農薬毒性評価は淡水種で行われてきたものの、汽水性の種を対象にした研究は行われていませんでした。また、汽水域では塩分の変化も動物プランクトンのストレス要因となっていることが指摘されていました。
東北大学大学院生命科学研究科の鈴木碩通大学院生(博士課程)と占部城太郎教授(現名誉教授)、福井県里山里海湖研究所の宮本康研究員、東北大学大学院工学研究科の高橋真司技術専門職員らの研究グループは、汽水湖の代表的な動物プランクトンであるキスイヒゲナガケンミジンコを対象に、最も一般的な農薬の1つであるイミダクロプリド(注3)の毒性評価を様々な塩分条件で実施しました。その結果、本種は農薬と塩分変化の両方に影響されるものの、その影響の大きさは塩分変化の方がはるかに大きいことが判明しました。近年、温暖化に伴う汽水域での塩分上昇が世界的に生じています。本研究から、汽水湖の生態系を保全する上で、塩分変化にこれまで以上に注視する必要があることが示されました。
本研究成果は2025年6月2日付で科学誌Ecotoxicology and Environmental Safetyにオンライン公開されました。

図1. 実験に用いたキスイヒゲナガケンミジンコ(Sinocalanus tenellus)の成体
【用語解説】
注1. 汽水湖:沿岸の河口域に発達し、河川水と海水の双方が流入する湖で、塩分は淡水より高いが海水より低い。汽水湖の塩分は、河川水と海水の流入量の割合、湖の形状や深さによって決まるが、一般に、少雨渇水により河川流入量が減ったり、海水面が上昇したりすると海水流入量が増加し塩分は上昇する。一方、降雨による洪水で河川からの流入量が増えれば、塩分は下がる。
注2. キスイヒゲナガケンミジンコ:エビ・カニと同じ甲殻類で、橈脚亜綱(とうきゃくあこう)のうちカラヌス目に属する動物プランクトン。成熟個体の体長は1.5~2mm程度、日本を含む東アジアの汽水湖など汽水域に広く分布している。
注3. イミダクロプリド:1992年に日本で農薬登録され、その害虫被害防除効率の高さから世界中で使用されている。容易に水に溶ける性質を持ち、湖沼や河川に流出することで、様々な水生生物に悪影響を及ぼすと懸念されている。
【論文情報】
タイトル:Are brackish water copepods susceptible to neonicotinoid pesticides? An experimental assessment across different salinity levels
著者:Hiromichi Suzuki*, Yasushi Miyamoto, Shinji Takahashi, Jotaro urabe
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 博士課程後期2年 鈴木碩通
掲載誌:Ecotoxicology and Environmental Safety
DOI:10.1016/j.ecoenv.2025.118439
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
名誉教授 占部城太郎(うらべじょうたろう)
TEL: 022-795-5619
Email: urabe*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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