2025年 | プレスリリース・研究成果
三世代7人家族158組のDNAメチル化情報の公開
【本学研究者情報】
〇東北メディカル・メガバンク機構分子疫学分野
教授 栗山 進一
東北メディカル・メガバンク機構ウェブサイト
【発表のポイント】
- 三世代にわたる日本人家系158組の高品質なDNAメチル化*1データセットを構築し、家系員ごとの平均値とばらつきをマルチオミックスデータベース(iMETHYL*2)に公開しました。
- 本データは東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査*3によって得られたもので、児を中心にみた父母・祖父母の7人(ヘプタファミリー)により構成される家系1,093名の、新生児臍帯血*4および成人末梢血*5から取得したDNAメチル化*1情報であり、約150万のCpG*6部位を含みます。
- 本データは、ライフステージや性別、家系構造に基づくエピゲノムの参照値として利用可能であり、ヒトのエピジェネティクスな変化*7を解析する上で重要なリファレンスパネルとなります。
【背景】
健康や疾患のリスクは出生前からの出生早期の環境が、その後の健康や病気のなりやすさに深く関係することが知られています。たとえば、妊娠中の母親の栄養状態や喫煙・ストレスなどが、生まれてきた子どもの将来の肥満、糖尿病、アレルギー、心疾患などのリスクに影響を及ぼす可能性があるとされています。
この考え方はDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)と呼ばれており、エピジェネティクスな変化*7の代表であるDNAメチル化*1によってその仕組みを説明しようとする研究が世界中で行われています。近年では、環境によるDNAメチル化*1状態の変化が親から子、さらには孫世代にまで伝わる「経世代エピゲノム継承」の可能性も議論されています。
しかし、ヒトを対象とした経世代解析は困難であり、複数世代にわたるDNAメチル化*1データと生活習慣情報を網羅的に整備したリファレンスは、これまで存在していませんでした。
そこで東北メディカル・メガバンク計画では、三世代コホート調査*3に参加した妊婦の方々から出産時に収集した新生児臍帯血*4、さらに妊婦さん本人と妊婦さんのパートナー(新生児の父)、新生児の祖父母の末梢血*5のDNAメチル化*1率を解析し、国内外の研究者が参照できるデータベースとして公開しました。

図:iMETHYLデータベース三世代7人家族データ表示画面
【用語解説】
*1 DNAメチル化 : DNA分子がメチル基による修飾を受ける現象。とくにDNA塩基のひとつであるシトシンで生じる現象を指すことが多い。DNAメチル化状態は環境要因によって変化することがあり、DNAメチル化状態の変化は遺伝子の働きを変化させることがある。
*2 iMETHYL : 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構にて管理しているウェブデータベースおよびゲノムブラウザ。東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査で収集したDNAメチル化データのサマリーなどを公開している。 URL:http://imethyl.iwate-megabank.org/
*3 三世代コホート調査 : 東北大学東北メディカル・メガバンク機構が実施する、祖父母・父母・児を対象としたコホート調査。生活習慣や生理機能、生体試料を収集している。
*4 臍帯血 : 母体と胎児をつなぐ臍帯に含まれる血液。
*5 末梢血 : 血管中の通常の血液。
*6 CpG : DNAメチル化はDNA中の塩基にメチル基(-CH3)が付加されるDNA修飾のひとつである。CとGが連続して並ぶ2塩基をCpGと呼び、哺乳類のゲノム中のCpGの60-90%はメチル化されている。
*7エピジェネティックな変化 : DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝子の働きの変化。DNAメチル化が代表例である。また、エピジェネティックな現象の総体をエピジェネティクスと呼ぶ。
問い合わせ先
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
広報戦略室
TEL:022-717-7908
Email:tommo-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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