2025年 | プレスリリース・研究成果
脱皮ホルモンが毒物から体を守る エクダイソンとその受容体の成虫期における意外な機能を解明
【本学研究者情報】
〇学際科学フロンティア研究所
准教授 市之瀬 敏晴(いちのせ としはる)
研究所ウェブサイト
【発表のポイント】
- 昆虫の脱皮を促進するホルモン「エクダイソン」とその受容体「DopEcR(注1)」についてショウジョウバエ成虫を使って研究しました。
- 重金属などの毒を含んだ餌を摂取すると、エクダイソンが腸に発現するDopEcRに作用し、解毒を促進することを明らかにしました。
- 同時に、エクダイソンは神経系に発現するDopEcRに作用し、毒を含んだ餌の摂取を抑制することがわかりました。
- エクダイソンが腸と神経系という二つの異なる組織に作用し、協調的に毒物に対する生体防御を行う仕組みが明らかになりました。
- 他の昆虫種や環境毒への応答、さらには哺乳類におけるホルモン・行動制御の比較研究などへの発展が期待されます。
【概要】
昆虫の脱皮を促すホルモン「エクダイソン」は、すでに脱皮を終えた成虫でも分泌されており、近年その新たな役割が注目されています。
学際科学フロンティア研究所の市之瀬敏晴准教授らのグループは、成虫期のエクダイソンが毒物から体を守る重要な役割を果たしていることを明らかにしました。このホルモンはDopEcRという受容体を介して、腸では解毒遺伝子の発現を促し、神経系では毒を含む餌を避ける行動を引き起こしていました。つまり、腸と神経におけるエクダイソンとDopEcRによる協調的な働きにより、二段構えの生体防御が実現されていることになります。
本研究成果は、成虫期におけるエクダイソンの機能に新たな視点を加えるもので、害虫制御への応用も期待されます。
本成果は6月28日、生物学系の学術雑誌Current Biologyに掲載されました。
図1. 本研究で示されたモデル。毒の摂取によりエクダイソンが神経系と腸のDopEcRに作用し、毒物の忌避行動と解毒をそれぞれ促進する。
【用語解説】
注1. DopEcR(Dopapmine/Ecdysone Receptor): エクダイソンとドーパミンの両方が作用することのできるG-タンパク質共役型の受容体。タンパク質のリン酸化などを介して細胞内に情報を伝える役割をもつ。ちなみに、エクダイソンが脱皮を誘導する際には別の受容体EcR(Ecdysone Receptor)に作用する。
【論文情報】
タイトル:Ecdysteroid-DopEcR signaling in neuronal and midgut cells mediates toxin avoidance and detoxification in Drosophila
著者:西塔心路、菅野舞、谷本拓、市之瀬敏晴
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所、准教授、市之瀬敏晴
掲載誌:Current Biology
DOI:10.1016/j.cub.2025.06.023
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学学際科学フロンティア研究所 准教授 市之瀬敏晴
TEL: 022-795-5265
Email: toshiharu.ichinose.c1*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学学際科学フロンティア研究所 企画部 藤原英明
TEL: 022-795-5259
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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