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宇宙を読み解く新たな知性: 量子×AIで異常なエネルギー放射現象を発見 ―X線宇宙観測データと量子機械学習の融合による世界初の成果―

【本学研究者情報】

〇学際科学フロンティア研究所
助教 山田 智史
研究所ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 量子コンピュータ※1と機械学習を組み合わせて構築した量子機械学習モデルのシミュレーションによる検証で、古典コンピュータ※2を用いた場合よりも多く、実際の宇宙の明るさの変化データから異常現象の候補を検出することに成功
  • 将来的に、高性能な天文望遠鏡による膨大な宇宙の動画データからわずかな異常変動を自動で検出する手法が求められており、今回、量子コンピュータ技術に機械学習を取り入れることで効率的に異常現象を検出できることを実証
  • 検知した宇宙での異常現象から宇宙の進化や物理現象などの解明に繋がる可能性だけでなく、量子機械学習の天文学分野への応用に向けた扉を開く成果

【概要】

大阪大学大学院理学研究科の川室太希助教、立教大学の山田真也准教授、酒井優輔さん(博士後期課程)、理化学研究所の長瀧重博主任研究員、松浦俊司上級研究員、東北大学の山田智史助教らによる研究グループは、欧州宇宙機関(ESA)が運用するX線天文衛星XMM-Newtonがこれまで約24年間にもわたり取得してきた大規模な宇宙のX線変動データから、量子コンピュータと機械学習を組み合わせた量子機械学習モデルを構築し適応することで、113件の異常なエネルギー(X)放射現象を捉えることに成功しました。

近い将来、今以上に宇宙の変化を捉えるために膨大な量の動画データが取得されると考えられています。そこで、人類の予想を超えるような変動を見つけ、宇宙の多様性やいまだ隠れている物理現象といった神秘を解明するために、最先端の機械学習モデルの開発が活発に行われています。

そのような状況のなか、研究グループは、機械学習と量子コンピュータを組み合わせた量子機械学習の有用性をシミュレーションベースで模索するため、機械学習で用いられているLSTMLong Short-term Memory※3(長・短期記憶)と呼ばれるニューラルネットワークに量子回路を埋め込み、量子コンピュータで計算できるように整備し、明るさの異常変動の検出を行いました。その結果、古典コンピュータを用いた場合よりも多くの候補を特定することに成功しました。

本研究成果は、米国科学誌「The Astrophysical Journal」に、72日(水)15時(日本時間)に公開されます。

図1
左図: 採用した量子LSTMと異常な明るさの検知の概要。連綿と入力データを量子回路を内包したLSTMユニットに送り、最終的に明るさを予測する(ひし形)。予測データよりも、ずれが小さい場合には通常データと判定(オレンジ丸)、ずれが大きい場合には異常現象と判定(赤紫丸)。
右図: 実際のX線の明るさの変化に量子また古典LSTMを適応した結果の一例。上パネルは、実際の観測データ、量子LSTM の予測、そして古典LSTMの予測を示している。下パネルは、観測データと予測のずれを示している。量子の方が、ずれ、または異常のシグナルが大きい。

【用語解説】

※1  量子コンピュータ
0と1が重なり合った「重ね合わせ」状態を持つ量子ビットを使い、複数の計算を同時に進められる特性がある。

※2  古典コンピュータ
電気の有無を0か1で表し、その組み合わせで計算を行う。

※3  LSTM(Long Short-term Memory)
過去からの長期的な情報を保持しつつ、直近の情報も考慮することで未来を予測するする能力があります。気象や株価データといった、時間変化するデータを扱うのに使われたりしています。

【論文情報】

タイトル:"Quantum Machine Learning for Identifying Transient Events in X-Ray Light Curves"
著者:Taiki Kawamuro, Shinya Yamada, Shigehiro Nagataki, Shunji Matsuura, Yusuke Sakai, and Satoshi Yamada
掲載誌:The Astrophysical Journal
DOI:10.3847/1538-4357/adda43

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
助教 山田 智史(やまだ さとし)
Email: satoshi.yamada*astr.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所 企画部
特任准教授 藤原 英明(ふじわら ひであき)
TEL: 022-795-5259
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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