2025年 | プレスリリース・研究成果
量子ダイナミクスの非線形性を解析できる新手法を開発 ─ 新たな材料設計や量子デバイス開発などへの貢献に期待 ─
【本学研究者情報】
〇大学院理学研究科物理学専攻
助教 小野 淳(おの あつし)
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 入力と出力が比例しない現象を記述する非線形応答関数(注1)を実時間シミュレーションから抽出するための新たな理論を構築し、具体的な数値計算からその妥当性を示しました。
- 本理論は、現実的な計算コストで、物理量の時間変化を計算できるあらゆる数値的手法に適用可能な一般的な枠組みを与えます。
- 強い電子間相互作用が働く系などの従来扱いが困難であった様々な物理系の非線形応答を効率的に解析できるため、より多くの分光学的知見が得られるようになり、新たな材料設計や量子デバイス開発にも貢献することが期待されます。
【概要】
物質に強い刺激を与えると、入力(力や電磁場)と出力(物理量の変化)の比例関係が崩れる「非線形応答」が現れます。この非線形応答を詳しく解析することは、物質の動力学的・分光学的性質を深く理解するために欠かせません。しかし従来の手法では、複雑に入り混じった非線形応答から必要な成分だけを取り出すことは困難でした。
東北大学大学院理学研究科の小野 淳 助教は、物理量の時系列データから非線形応答関数を抽出するための新たな理論的枠組みを構築しました。これは既存の任意の実時間シミュレーション手法に適用可能であり、従来難しかった強い電子間相互作用や多くの自由度、環境への散逸などを伴う複雑な系でも非線形応答を解析することが可能になります。これにより、非線形応答を活用した機能性材料や量子デバイスの研究開発を加速することが期待されます。
本研究の成果は、2025年7月9日付で、米国物理学会が刊行する学術誌Physical Review Lettersにオープンアクセス論文として掲載されました。

図1. (左)バネに繋がれたおもりの模式図。力fを加えると、変位xが生じる。(右)力と変位の関係。通常、力の大きさfとおもりの変位xは比例するが、力が大きくなると比例関係からのずれ(非線形応答)が生じる。
【用語解説】
注1. 非線形応答関数:外部から加えられる力に対して、物理量に生じる変化量との関係を結びつける量を一般に応答関数という。特に、力と変化量との間に比例関係が成り立たない場合に非線形応答関数と呼ばれる。
【論文情報】
タイトル: Extracting Nonlinear Dynamical Response Functions from Time Evolution
著者: Atsushi Ono*
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 助教 小野淳
掲載誌:Physical Review Letters
DOI:10.1103/qsxr-c2pq
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
助教 小野 淳(おの あつし)
TEL: 022-795-6365
Email: a.ono*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
TEL: 022-795-6708
Email: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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