2025年 | プレスリリース・研究成果
放射線の種類で変化するEu添加CaF₂結晶の発光特性を発見
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 特任准教授 吉野将生
研究室ウェブサイト
【概要】
シンチレータは放射線のエネルギーを光に変換する物質です。その一つである、Eu(ユウロピウム)添加CaF2結晶にα線を照射すると、X線を照射したときよりも長い波長の光が多く発生することを世界で初めて発見しました。これにより、波長を使って放射線の種類を識別できる可能性があります。
シンチレータは放射線のエネルギーを光へ変換する物質で、医療やセキュリティなど幅広い分野で利用されています。中でもEu(ユウロピウム)添加CaF₂(フッ化カルシウム)結晶は、高い発光量(約2万光子/MeV)を示し、優れた光学的透明性と化学的安定性を備えたシンチレータです。
これまでシンチレータの発光波長と放射線の種類は関係がないと考えられてきましたが、本研究では、CaF₂結晶に対してユウロピウム(Eu)の添加濃度を変えたものを複数作製し、α線とX線をそれぞれ照射して発光の色(波長)と強さを詳しく調べました。その結果、Eu²⁺による波長約420 nmの発光と、Eu³⁺による波長590-695 nmの発光の比が、照射する放射線の種類によって異なることを発見しました。また、同一試料においてEu²⁺発光を一定とした場合、Eu³⁺発光は、α線照射時にX線照射時の約2倍となることが確認されました。すなわち、光の色の違いにより放射線の種類を識別できる可能性を示唆しており、例えば、原子力施設の解体現場など複雑な環境での線量測定に応用できる可能性があると考えられます。
本研究成果は、新しい粒子識別法および次世代の放射線検出技術の開発につながると期待されます。今後は、レンズを用いた光学系との組み合わせにより、放射線が通った飛跡をカラーで記録する技術を開発し、α線やX線などの粒子種を色で識別できる手法の確立を目指します。

図 本研究の概要
(上)本研究に用いたEu添加CaF2結晶。数字はEu濃度を示す。UVライト照射下で、Euの発光が確認できる。Eu濃度が低い場合、結晶はEu2+から紫色光を発し、Eu濃度が高い場合、Eu3+からの赤色発光が優勢となる。サイズは参考としてEu3%の結晶が11.5 mm角、6.5 mm厚であるが、Eu3+/Eu2+の比を取るため結晶の形状やサイズは影響しないと考えられる。
(左下)Eu添加CaF2(濃度3%)結晶の発光スペクトル測定結果。赤線はα粒子照射下のスペクトル、青線はX線照射下のスペクトル、黒線は結晶の光学的透過率を示す。
(右下)Eu濃度(横軸)に対するα線照射下とX線照射下におけるEu3+/Eu2+発光強度比の比。すなわち縦軸は、Eu²⁺の高さをそろえた場合のEu3⁺の発光強度のα線/X線の割合の違いを表す。α線によるEu3⁺発光がX線の2倍大きいという結果は、Eu濃度が1%を超えるとほぼ一定に保たれている。
【論文情報】
題名:Emission Characteristics of Eu2+ and Eu3+ under X-Ray and Alpha Irradiation in Eu-Doped CaF2 Crystals(Eu添加CaF2結晶におけるX線, α線照射時のEu2+, Eu3+発光特性)
著者名:Takashi Iida, Masao Yoshino, Kyoung Jin Kim, and Kei Kamada
掲載誌:Scientific Reports
掲載日:2025年9月1日
DOI:10.1038/s41598-025-17570-5
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
特任准教授 吉野将生
TEL:022-215-2214
Email:masao.yoshino.a5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(取材・報道に関すること)
東北大学 金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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