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スパコンと顕微鏡で磁石のつながりの強さを測ることに成功 ~次世代デバイスに向けた磁性ガーネットの新しい材料評価技術を確立~

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 准教授 後藤太一
ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 顕微鏡観察とコンピュータシミュレーションを組み合わせた簡便な新手法を使い、巨大な磁気光学効果を示す磁性ガーネット薄膜が磁石になろうとする強さを表す交換スティフネス定数(注1を精密に決定することに成功しました。
  • 本技術により、次世代低消費電力デバイスとして期待されるスピントロニクス(注2やマグノニクス(注3デバイスの効率的な材料評価と設計指針の確立が期待されます。

【概要】

磁性材料において、隣接する磁気モーメント間の結合強度を表す「交換スティフネス定数」は、磁区(注4構造や磁気応答特性を決定する最も重要な物性値の一つです。この値の正確な測定は、磁気記録デバイスやスピントロニクス素子の設計において必要不可欠ですが、従来の測定法には装置の高コスト化や試料の損傷といった課題がありました。

東北大学、豊橋技術科学大学、信越化学工業株式会社、トルコ・コチ大学による国際共同研究グループは、大規模3次元マイクロ磁気シミュレーション (注5と偏光顕微鏡観察を組み合わせた磁性材料の新しい評価手法を開発しました。セリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)(注6薄膜を用いた実証実験において、観察された磁区周期とシミュレーション結果を照合することで、交換スティフネス定数を3.8~4.4 pJ/mの範囲で精密に同定しました。この値は既報の実験値と良好に一致し、手法の有効性を確認しました。さらにシミュレーションにより、磁性ガーネット膜中には複合型磁壁(注4構造(ネール・ブロッホ混合壁)が存在していることを明らかにし、磁性体薄膜における磁壁物理の新たな理解をもたらしました。本技術は材料を損傷することなく基本的な装置のみで測定が可能であり、実用化により次世代磁気デバイスの効率的な材料スクリーニングと最適設計の実現が期待されます。

本成果は9月9日(現地時間)、応用物理分野の国際専門誌Applied Physics Lettersに注目論文のFeatured Articleとして掲載されました。

図1. 磁気ドメインの計算を行い、ドメイン半周期が等しくなるときを探すことで交換スティフネス定数を特定できることを示した。

【用語解説】

注1. 交換スティフネス定数:磁性材料内で隣り合う原子の磁気モーメント同士がどの程度強く結びついているかを数値化した物理量。交換結合定数とも呼ばれる。この値によって、磁性体内部の磁区パターンや磁壁の厚み、スピン波の伝わり方などの基本特性が決まる重要な材料パラメータ。測定単位はpJ/m(ピコジュール毎メートル)で表される。

注2. スピントロニクス:電子が持つ電荷の性質だけでなく、電子のスピン(磁気的性質)も活用してデバイスの機能を実現する新しい電子技術分野。従来の半導体技術を超えた低消費電力・高機能デバイスの創出を目指している。

注3. マグノニクス:磁性材料中のスピン波(マグノン)を情報伝達に利用する新技術分野。磁気波の持つ波動特性や干渉現象を活用し、従来の電子デバイスでは実現困難な超低消費電力での情報処理技術の確立を目指す研究領域。

注4. 磁区・磁壁:磁性材料において磁化の向きが同じ方向に揃った領域を磁区と呼び、異なる磁区同士の境界部分が磁壁となる。磁壁は磁化の回転様式により、薄膜面内で回転するネール壁と面に垂直方向に回転するブロッホ壁に分類され、今回の研究では両者が混在する新しいタイプの磁壁構造を確認した。

注5. マイクロ磁気シミュレーション:磁性体内の磁化分布とその時間発展を数値計算で予測する手法。交換相互作用、磁気異方性、静磁相互作用などを考慮して磁気構造を計算。

注6. セリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG):Ce0.9Y2.1Fe5O12の化学組成を持つ磁性ガーネット。薄膜面に垂直な垂直磁気異方性と優れた磁気光学効果を併せ持ち、光通信用アイソレータやスピントロニクス素子などへの実用化が検討されている磁性ガーネット材料。

【論文情報】

タイトル:Evaluation of Exchange Stiffness Constant in Iron Garnet Film using Micromagnetic Simulation
著者:Takumi Koguchi, Toshiaki Watanabe, Hibiki Miyashita, Kazushi Ishiyama, Yuichi Nakamura, Mitsuteru Inoue, Mehmet C. Onbasli, Taichi Goto*
*責任著者:東北大学電気通信研究所・准教授・後藤太一
掲載誌:Applied Physics Letters(Featured Articleに選出)
DOI:10.1063/5.0283742

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 電気通信研究所
准教授 後藤太一
TEL: 022-217-5489
Email: taichi.goto.a6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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