2025年 | プレスリリース・研究成果
メタボリック症候群が胃噴門部腺癌を進展させる機序を解明 腸内環境異常が胃噴門部腫瘍の腫瘍免疫を抑制する可能性
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科・消化器病態学分野
消化器医療イノベーション推進寄附講座 講師 宇野要
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- メタボリック症候群と胃噴門部腺がん(注1)をつなぐ機序として、腸内環境異常とそれにともなう大腸菌成分リポ多糖刺激(注2)が重要な役割を果たすことが、マウスを用いた研究でわかりました。
- 大腸菌リポ多糖刺激は、腫瘍細胞に酸化ストレス(注3)応答を担うタンパク質NRF2を介してPD-L1タンパク質(注4)発現を直接誘導します。
- メタボリック症候群にともなう異常な腸内細菌叢(注5)とその代謝産物が循環血液を介して胃噴門部腺がんの進展に関与することから、生活習慣病予防や腸内環境改善が胃噴門部腺がんの予防につながる可能性があります。
【概要】
現在、胃がん予防としてピロリ菌除菌療法が普及しています。しかし、胃噴門部腺がんは食生活の欧米化にともない増加し、ピロリ菌以外の細菌感染が関与する可能性があります。生活習慣病のメタボリック症候群と胃噴門部腺がんとの関連性は報告されましたが、両者をつなぐ機序は明らかではありません。
東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野の正宗 淳教授、宇野 要講師、草野 啓介大学院生(研究当時)、東北大学東北メディカル・メガバンク機構分子血液学分野の清水 律子教授、同機構地域口腔健康科学分野の玉原 亨講師らの研究グループは、メタボリック症候群にともなう腸内環境から漏れてきた異常な腸内細菌叢・代謝産物や大腸菌成分リポ多糖が、循環血液を介し胃噴門部の腫瘍細胞に到達し、酸化ストレス応答を担うタンパク質NRF2活性化によりPD-L1タンパク質発現を直接誘導し、腫瘍免疫回避(注6)により腫瘍進展をきたすことを発見しました。本研究の結果から、生活習慣病予防や腸内環境改善により胃噴門部腺がん進展を抑制する効果が期待されます。
本研究成果は2025年9月9日に米国の学術誌CMGH誌に掲載されました。

図1. メタボリック症候群にともなう腸内環境異常が胃噴門部腫瘍を進展させる
高脂肪食摂取にともなう腸内環境異常により腸管粘膜傷害が惹起され、異常な腸内細菌叢および代謝産物が循環血液中に漏洩、
メタボリックエンドトキセミアの状態となると、腫瘍細胞にPD-L1発現を誘導することで胃噴門部腫瘍微小環境での腫瘍免疫を抑制し、
腫瘍進展させる可能性があります。
【用語解説】
注1.胃噴門部腺がん:食道と胃との接合部に発生する腺がんで、近年増加しています。食道の重層扁平上皮組織から胃の単層円柱上皮組織へとつながる食道と胃の接合部は、胃食道逆流を防ぐ括約筋で内腔が調整されているため、内視鏡検査による詳細な観察が困難なことがあります。
注2. 大腸菌成分リポ多糖:グラム陰性菌大腸菌の細胞壁外膜の構成成分で、脂質や多糖から構成される糖脂質です。エンドトキシンとして免疫系との相互作用を通じ、健康に大きな影響を与える可能性があります。
注3. 酸化ストレス応答:通常状態の生体組織の酸化還元状態が乱されると、 過酸化物やフリーラジカルが産生され、タンパク質、脂質、DNAなどが障害される反応およびそれを防御する反応です。NRF2は酸化ストレスに対する反応を制御する中心的な遺伝子です。
注4. PD-L1タンパク質:細胞の表面に発現しているタンパク質で、免疫細胞であるT細胞表面のPD-1タンパク質と結合し、免疫細胞の働きを抑える役割を担う免疫チェックポイント分子です。がん細胞がPD-L1を発現することで、T細胞からの攻撃を逃れます。
注5. 腸内細菌叢:腸内に生息している細菌で1,000種類以上存在しており、腸内環境を整える"善玉菌"、毒性のある代謝産物により腸内環境を悪化させる"悪玉菌"などがあります。最近、腸内細菌叢の特徴とさまざまな病気との関連が注目されています。
注6. 腫瘍免疫回避:がん細胞が免疫細胞からの「攻撃」をかわすこと
【論文情報】
タイトル:Metabolic syndrome develops cardia cancer via nuclear factor-E2-related factor 2-programmed death-ligand 1 signaling
著者:草野啓介、宇野要*、玉原亨、浅野直喜、須藤洸一郎、田邊瑞樹、小笠原光矢、菅野武、小池智幸、清水律子、正宗淳
*責任著者:東北大学医学系研究科・消化器病態学分野、消化器医療イノベーション推進寄附講座、講師 宇野要
掲載誌:CMGH (Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology)
DOI:10.1016/j.jcmgh.2025.101629
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・消化器病態学分野
消化器医療イノベーション推進寄附講座
講師 宇野 要
TEL: 022-717-7171
Email: kaname.uno.c3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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