2025年 | プレスリリース・研究成果
三次元磁気スキルミオンひもの非相反性を観測 ~省エネ・創エネデバイス実現への新発見~
【本学研究者情報】
〇電気通信研究所 助教 土肥昂尭
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 磁気スキルミオンと呼ばれるナノスケールで実現する磁気渦は、室温でも高い安定性を有し、またその電気的制御の容易性から革新的省エネ・創エネデバイスへの応用に向けた研究が進められています。
- 三次元的な磁気プロファイルを有する磁気スキルミオンひもにおいて、電流誘起ダイナミクスが非相反性[注1]を示すことを世界で初めて観測しました。また、膜面直方向の磁気渦の捩れ方(ヘリシティ)が非相反性に強く影響することを明らかにし、かつそれを制御する方法を確立しました。
- 磁気スキルミオンの非相反運動を用いた新たな創エネデバイスの実現に向け、重要な知見となる成果です。
【概要】
ナノメートルスケールにおいて極めて高い安定性を持つと期待されるトポロジカル磁気構造の応用へ向けた研究が進められています。特に近年、二次元的(2D)トポロジカル磁気構造の一種である磁気スキルミオンを膜面直方向に拡張したひものような三次元的(3D)トポロジカル磁気構造が高い安定性や非線形的な励起が期待できることから注目を集めています。しかしながら、そのような三次元的な構造に特有の電流誘起ダイナミクスは、これまで明らかにされていませんでした。
今回、独マインツ大学ヨハネスグーテンベルグ校及び東北大学からなる研究チームは、3D磁気スキルミオンひも(図1)の電流誘起ダイナミクスが印加する電流の極性によって異なる振る舞いを示す、非相反性と呼ばれる性質を示すことを世界で初めて発見しました。さらに、その非相反性は、磁気スキルミオンの膜面垂直方向の磁気渦の巻かれ方(ヘリシティ)によって制御できることを実証しました。
3D磁気スキルミオンひもの非相反運動を用いる新たな省エネ・創エネデバイスの実現に向けた研究開発が進展することが期待されます。
本研究成果は、2025年9月26日(英国時間)に出版された科学誌Nature Communicationsに掲載されました。

図1.人工反強磁性多層膜に形成された反強磁性結合したスキルミオンひも。ヘリシティ(磁気渦のねじれ方)という内部自由度を巧みに利用することで、通常の磁気スキルミオンとは、質的に異なるダイナミクスが期待できる。
【用語解説】
注1.非相反性
「行き」と「戻り」で同じ動きをしない性質。典型的な例である半導体ダイオードは、電流を一方向には通すが、逆向きにはほとんど流さない。でこぼこの坂道にボールを置くと、右には転がるが左には戻りにくいラチェット運動も非相反性の例である。工学的には、この非相反性を巧みに利用することで、整流作用に基づく信号の制御やエネルギー変換などに応用される。現代テクノロジーを支える重要な原理の一つ。
【論文情報】
タイトル:"Observation of a non-reciprocal skyrmion Hall effect of hybrid chiral skyrmion tubes in synthetic antiferromagnetic multilayers" (人工反強磁性多層膜におけるハイブリッドカイラルスキルミオンひもの非相反スキルミオンHall効果の観測)
著者: Takaaki Dohi*, **, Mona Bhukta*, Fabian Kammerbauer*, Venkata Krishna Bharadwaj, Ricardo Zarzuela**, Aakanksha Sud, Maria-Andromachi Syskaki, Duc Minh Tran, Sebastian Wintz, Markus Weigand, Simone Finizio, Jörg Raabe, Robert Frömter, Jairo Sinova, and Mathias Kläui**
*:共同筆頭著者 **:責任著者
東北大学電気通信研究所 助教 土肥 昂尭
掲載誌:Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-025-63759-7
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
助教 土肥 昂尭
TEL: 022-217-5555
Email: tdohi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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