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左心疾患に伴う肺高血圧症の病態機序解明へ-INHBAを含むTGF-βシグナルがカギを握る-

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院医学系研究科
循環器内科学分野
教授 安田聡
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 左心疾患に伴う肺高血圧症(注1)は、肺高血圧症の中で最も患者数が多く、予後にも大きな影響を与える病態です。しかし、その発症メカニズムの詳細は十分に解明されていませんでした。
  • 本研究では、INHBA(注2)を中心とするTGF-βシグナル(注3)が、左心疾患に伴う肺高血圧症の発症過程において重要な役割を担っていることを明らかにしました。
  • 本発見は、特異的な治療法が確立していない左心疾患に伴う肺高血圧症において、新たな治療戦略につながる可能性を示す成果です。

【概要】

左心疾患に伴う肺高血圧症は、肺高血圧症の原因の中で患者数が最も多く、予後不良です。しかしながら、本疾患の病態解明は不十分で肺高血圧症に対する特異的な治療法がありません。近年、INHBA(Activin A)を中心としたTGF-βシグナルを抑制するソタテルセプト(注4)が新規の肺動脈性肺高血圧症の治療薬として注目されています。しかし、左心疾患に伴う肺高血圧症におけるINHBAの役割は十分に理解されていませんでした。

東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の安田聡教授、山田祐資医員、同大学SiRIUS(医学イノベーション研究所)佐藤大樹講師らの研究グループは、左心疾患に伴う肺高血圧症において重症患者や動物モデルでINHBA発現が上昇していることを発見しました。左心疾患による肺動脈への圧力の伝播によりミトコンドリア機能障害に伴う酸性環境が形成され、その結果、INHBAの発現が亢進することがわかりました。さらに、INHBA発現亢進が、肺動脈平滑筋細胞の増殖を促進し、肺動脈の肥厚(リモデリング)をきたすことを明らかにしました(図1)。本研究は、ヒト検体、動物モデル、培養細胞を用いた多層的解析により、左心負荷から肺血管リモデリングに至る一連の病態メカニズムを示した点が特徴です。本発見は、いまだ特異的な治療法のない左心疾患に伴う肺高血圧症の新たな治療戦略につながることが期待されます。

本研究は2026年1月22日に心血管研究の専門誌Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biologyに掲載されました。

図1. 左心疾患に伴う肺高血圧症におけるINHBAの役割
左心疾患による左心系の圧上昇が肺血管への圧負荷をきたし、c-MYC-PDK1経路の亢進に伴うミトコンドリア機能障害から乳酸の蓄積とアシドーシスをきたし、INHBAが増加する。増加したINHBAはActivin AとしてTGF-βシグナルを促進することにより細胞増殖を誘発する。この機序によって肺動脈のリモデリングをきたし肺高血圧症に至る。

【用語解説】

注1. 左心疾患に伴う肺高血圧症
左心疾患患者の一部において、左心室・左心房の圧の上昇が手前の肺血管へ影響を与え、肺動脈の収縮や肥厚(リモデリング)が引き起こされ、肺高血圧症を発症する。

注2. INHBA (Inhibin subunit beta A)
二量体を形成しアクチビンAとして作用し、TGF-βシグナルという細胞増殖に関与するシグナルが進行する最初の刺激になりうるタンパク。

注3. TGF-βシグナル (トランスフォーミング成長因子ベータ)
細胞がTGF-βやアクチビンという合図を受けて遺伝子発現を組み替えることで、細胞の増殖・分化・免疫・組織の線維化などを調整する仕組み。このバランスの崩れは肺高血圧症の発症に関与する。

注4. ソタテルセプト
アクチビンを阻害することでTGF-βシグナルによる細胞増殖を抑制し、肺動脈の肥厚を緩和し肺高血圧を改善する新規の肺動脈性肺高血圧症の治療薬。

【論文情報】

タイトル:Pathogenesis of Pulmonary Artery Remodeling: TGF-beta Signaling and Inhibin Subunit Beta A in Group 1 and 2 Pulmonary Hypertension
著者:Yusuke Yamada, Taijyu Satoh, Nobuhiro Yaoita, Kaito Yamada, Naoki Chiba, Kohei Komaru, Kotaro Nochioka, Saori Yamamoto, Haruka Sato, Nobuhiro Kikuchi, Takashi Nakata, Shinichiro Sunamura, Takumi Inoue, Hideka Hayashi, Hideaki Suzuki, Shunsuke Tatebe, Hiroyuki Takahama, Hisashi Oishi, Satoshi Miyata, Yoshinori Okada, and Satoshi Yasuda*
山田 祐資、佐藤 大樹、矢尾板 信裕、山田 魁人、千葉 直貴、小丸 航平、後岡 広太郎、山本 沙織、佐藤 遥、菊地 順裕、中田 貴史、砂村 慎一郎、井上 巧、林 秀華、鈴木 秀明、建部 俊介、高濱 博幸、大石 久、宮田 敏、岡田 克典、*安田 聡
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野 教授 安田聡
掲載誌:Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology (Online ahead of print.)
DOI:10.1161/ATVBAHA.125.322506

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
循環器内科学分野
教授 安田 聡(やすだ さとし)
TEL: 022-717-7153
Email: satoshi.yasuda.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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