2026年 | プレスリリース・研究成果
母親の周産期うつ状態と幼児の神経発達との関連 大規模調査データの解析と動物実験で男女で異なるリスクを解明
【本学研究者情報】
〇東北大学大学院医学系研究科
精神神経学分野
講師 兪 志前
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 東北メディカル・メガバンク計画(注1)の三世代コホート調査データにおいて、母親の周産期うつ状態(注2)は、幼児の自閉スペクトラム症関連特性(注3)リスクの増加と関連し、その関連は女児においてより顕著でした。
- 周産期にうつ状態にある母親は子への情緒的絆(注4)の指標が有意に低く、生まれた女児の出生体重も有意に低いという結果が得られました。
- 周産期ストレス負荷(注5)を加えた母マウスでは、うつ様行動(注6)の増加と育児行動(注7)の低下が誘発され、その母マウスから生まれた雌仔マウスのみ自閉スペクトラム症様行動(注8)が観察され、脳内オキシトシン受容体(注9)の発現低下が確認されました。
【概要】
周産期における母体の心身の健康は、子どもの神経発達に極めて重要です。
東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野の兪志前講師および富田博秋教授の研究グループは、東北メディカル・メガバンク機構が実施している三世代コホート調査のうち2.3万組の母子のデータを用い、母親の妊娠期から産後にかけての精神状態が幼児の自閉スペクトラム症関連特性に及ぼす影響を検討しました。その結果、母親の妊娠初期・中期における心理的ストレスおよび産後1ヶ月時点でのうつ状態の指標は、幼児の自閉スペクトラム症関連特性を示す指標と有意に関連しており、特に女児においてより顕著に認められました。さらに、母から子への情緒的絆の指標の低下も、女児の自閉スペクトラム症関連特性の増加と有意に関連していました。加えて、妊娠中ストレスを負荷したモデルマウスにおいても、同様に雌仔マウスで社会行動の低下が認められ、その基盤メカニズムとして、脳内オキシトシン受容体の発現低下が確認されました。周産期のうつ状態が子どもの神経発達に与える影響を考慮する上で、性差についても考慮することの重要性を示すとともに、周産期早期からの母親のメンタルヘルス向上に向けた見守りと介入が重要であることを示唆する研究成果です。
本研究成果は、2026年2月4日付でNature Portfolio の医学誌Molecular Psychiatry に掲載されました。
図1. 三世代コホート調査のデータを利用した研究の詳細
母親の周産期うつ症状の指標は、女児における出生時体重の低下 (P = 0.01)、妊娠初期から産後にかけて女児の自閉スペクトラム症関連特性の指標と有意に関連していました(オッズ比: 5.805-9.367; P < 0.05)。母親の産後うつ状態を示す指標と生まれた女児との情緒的な絆の低下を示す指標との間に弱い関連性が認められました(相関係数= 0.107, P < 0.0001)。
【用語解説】
注1. 東北メディカル・メガバンク計画
東北大学と岩手医科大学が連携し、東日本大震災の被災地域を対象とした健康調査を実施し、震災が住民に与える長期的影響を評価しています。また、追跡を含む健康調査で提供いただいた生体試料とそのゲノム・オミックス解析結果等を蓄積したバイオバンクを構築し、研究基盤とすることで、東北発の次世代医療の実現を目指しています。一般住民を対象とした地域住民コホート調査と家系情報付きの三世代コホート調査があります。2015年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究支援担当機関の役割を果たしています。
https://www.megabank.tohoku.ac.jp/
注2. 周産期うつ状態
妊娠中から産後にかけて母親にみられる抑うつ様症状を指します。本研究では、妊娠中は Kessler Psychological Distress Scale (K6)、産後1ヶ月は Edinburgh Postnatal Depression Scale (EPDS) の質問票を用いてそれぞれ評価しました。
注3. 自閉スペクトラム症関連特性
自閉スペクトラム症に関連する行動や性質の有無およびその強さを示す指標であり、本研究では東京自閉行動尺度 (Tokyo Autistic Behavior Scale, TABS) の質問票を用いて評価しました。
注4. 情緒的絆
母親が乳児に対して感じる情緒的なつながりの強さを示す指標であり、Mother-to-Infant Bonding Scale (MIBS) 質問票を用いて評価しました。
注5. 周産期ストレス負荷
モデル動物実験において、妊娠中から出産前後までに母マウスにかける軽微で持続的なストレスを指します。
注6. うつ様行動
動物実験においてヒトの抑うつ状態を客観的に評価する行動指標であり、強制水泳や尾懸垂で動かない時間をうつ様行動の有無を評価します。
注7. 育児行動
出産前の母マウスの巣作りおよび出産後において仔マウスを世話する行動をスコア化して評価する方法です。
注8. 自閉スペクトラム症様行動
身づくろい行動や玉埋めなどの動物でみられる同じ動きを繰り返す行動、および他個体への接触行動の減少(関心の低下)などを指します。
注9. オキシトシンおよびオキシトシン受容体
愛着や信頼感、出産や授乳に関わる脳内ホルモンと、その作用を受け取るための受容体です。
【論文情報】
タイトル:Sex Differences in the Risk of Autistic-Related Traits in Toddlers Born to Mothers with Perinatal Depression: Evidence from Human Cohort and Mouse Study
周産期うつ病が幼児の自閉スペクトラム症関連特性リスクに及ぼす性差: コホート調査とマウス研究
著者:Changrong Duan, Zhiqian Yu, Xue Li, Mai Sakai, Yuko Maejima, Kenju Shimomura, Tomoyuki Furuyashiki, Saya Kikuchi, Natsuko Kobayashi, Kazuto Sasaki, Tasuku Matsuki, Hiroshi Komatsu, Mizuki Hino, Yasuto Kunii, Tomoko Kasahara, Mami Ishikuro, Keiko Murakami, Masatsugu Orui, Takaaki Abe, Fuji Nagami, Nobuo Fuse, Soichi Ogishima, Kengo Kinoshita, Masayuki Yamatomo, Naoki Nakaya, Atsushi Hozawa, Taku Obara, Shinichi Kuriyama, Hiroaki Tomita
段 昌嶸、兪 志前、李 雪、坂井 舞、前島 裕子、下村 健寿、古屋敷 智之、菊地 紗耶、小林 奈津子、佐々木 和人、松木 佑、小松 浩、日野 瑞城、國井 泰人、笠原 朋子、石黒 真美、村上 慶子、大類 真嗣、阿部 高明、長神 風二、布施 昇男、荻島 創一、木下 賢吾、山本 雅之、中谷 直樹、寳澤 篤、小原 拓、栗山 進一、富田 博秋
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野 講師 兪志前
掲載誌:Molecular Psychiatry
DOI:10.1038/s41380-026-03456-z
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
精神神経学分野
講師 兪 志前(ゆ しぜん)
TEL: 022-717-7261
Email: yu_zhiqian*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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